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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


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阿地知 進 (あぢち すすむ) 金沢大学大学院

■報告題目

障害者雇用の賃金論

■報告キーワード

障害者雇用 ・ 割当雇用制度 ・ 賃金論

■報告要旨

 割当雇用制度(義務雇用制度)の法的根拠は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年七月二十五日法律第百二十三号)」である。
 障害者雇用の推進制度は,世界的には,割当雇用制度から始まる。第一次世界大戦後の傷痍軍人への対策が障害者対象へと拡大して行ったものである。
現在、諸国の制度は、割当雇用制度のみ、割当雇用制度を廃止して差別禁止法のみ、両者の併用と多様であるが、全体では割当雇用から差別禁止法による制度へと動いている。
 理念でみると、割当雇用制度は、事業者に、割当数に達するまでは求人状況及びその内容にかかわりなく障害者に合った仕事を作り出す、という課題を課し、差別禁止法は、求人内容に合致する障害者であれば就業保障を課す、という相違は確かにある。しかし障害者に合理的配慮をして就労保障することは同様である。
 そして、障害者と言う立場からは、どちらの制度にしても、結局、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目としているということに他ならない。職能ではなく割当てられた数を雇用することになる割当雇用制度、職能に対しては平等になるような制度であるが、雇用の絶対数で、多くの障害者を雇用することに、やはり、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目とする差別禁止法である。
 そして、ここでの問題は、障害者を多く雇っていることが、経済競争上不利になるという“不公平感”が、当然のこととして制度に反映している点である。ここに、障害者は「デキナイ労働者」と言うことが、暗黙の理解となり、この点が多くのディスアビリティをもたらしている。
 日本の障害者雇用施策は、割当雇用制度によって事業主に一定割合の障害者を雇用することを義務づけ、 障害者を雇用できない事業主から納付金を徴収し、 それを財源に障害者雇用を積極的に進める事業主に対し、調整金や助成金を支給するというものである。割当雇用制度および障害者雇用納付金制度を中心としつつ、重度障害者の雇用促進のためのダブルカウント制度や、 大企業における障害者の雇用促進のための特例子会社制度などを組み合わせた制度となっている。しかし、このような、障害者の為に行われている制度が“特別の意味を持った雇用”を生み、障害者の雇用に、いくつものディスアビリティを形成していると言える。
 中小企業家同友会の活動や障害者が雇用主となる、あるいは、多くの発言権を持つ経営体が、費用対効果の概念では、効率的ではないという障害者の雇用を取り入れ、経済単位として成り立ってゆくかを探っているNPO法人の活動を通して見えてくることは、障害者の賃金に関する考え方である。 割当雇用制度に見られる、障害者は「デキナイ労働者」という観念からは、費用対効果という物差しで測ってゆけば、障害者を雇用することは、いかにも不利に考えられ、障害者の雇用の条件は、賃金をはじめとして、不利なものとなっている。
 ここで、賃金を、労働の再生産費的に考えれば、その報酬で生活のすべてを賄い、将来の、人並みの暮らしが見通せて、次の労働を意欲を持って迎えるようなものである。そのように考える時、例えば、就労Bにおける報酬が1か月7,000円などというのは、賃金とは言えない。当然、障害者が、障害年金を受け取っていて、その合算として収入を考えるのだが、それにしても、労働の再生産費という観点からは満足はできない。
 中小企業家同友会の沖縄や京都の事例では、障害者の1人1人を面接して、収入の状況と生活の状況そして将来のビジョンなどを聞いて、労働時間や工賃を考慮して、賃金を決めている。
 健常者においても、ワーキングプアーといったことが問題になるように、労働の再生産費という観念ではなく、相対的な賃金が主流である。そんな中で、障害者にだけそのような賃金を要求するのは理不尽なようだが、必要な賃金を計算して、足りない分は、福祉的扶助を充てるという方向も考えてゆくべきではないか。
 現在の、民間の活動は、足りない分を企業内努力で補い活動を進めているが、障害者の就労継続支援の資金が障害者にではなく、事業所に入ってくる制度は、見直されるべきで、ベーシックインカム的な経費を決め、自力で達成できない部分を個人に扶助する方法も、検討されるべきであろう。

 倫理的配慮に関しては、金沢大学研究者行動規範に従い、「日本社会学会倫理綱領にもとづく研究指針」、「日本社会福祉学会研究倫理指針」などを参照し、個人情報の漏洩等が無いよう心掛けた。また、法人や団体の名称については確認を取り、問題の無い点を確認して、報告に配慮した。その他、研究に対する一般的姿勢は、日本学術会議の「科学者の行動規範」などに示されるように、自ら律するよう努めた。



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