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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


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川添 睡(かわぞえ ねむる)

■報告題目

当事者研究, 障害学, そして自閉的にクィアする試み

■報告キーワード

当事者研究、クィア(する)/Queer

■報告要旨

報告者は成人になってから発達障害と名指される経験をしている個人である.
精神的な障害も社会から否定的に意味づけされるレッテルであり, かつ実際にそのように障害される個人も, 社会生活上の様々なレイヤーにおいて被周縁化を経験し, また自分たちが周縁的な存在であることを是認する社会的な作業に不可避的に参加している.
現在報告者は社会と自身との折衝をする上で大きく3つの概念に助けられており, 本報告ではそれらと, それらが報告者の中で持つ有機的なつながり (ないしは, 繋げようとする試み) について報告する.

報告者が手掛かりとしているものの1つ目は, 運動の歴史とそこより (時にアカデミックに) 昇華された知見と態度である. つまりそれは障害学からであり, フェミニズム, 公民権運動, ゲイアクティビズム, クィア理論からであり, そしてまたそれらの双方向的な横断と重ね合わせからである.

もう1つは, 報告者が日常的に利用している「当事者研究 (ミーティング)」である. 当事者研究という言葉が指す範囲は多様だが, ここでの意味は「べてるの家よりムーブメントが生じ現在は様々な主体によって開催される, 自己研究形式のミーティング」である. 当事者研究のミーティングの手法にも多様性があるが, 報告者は "ミーティング" という他者とつながる形式そのものと同じくらいに, 当事者研究の「日常で "研究する" という "態度"」というものが大きな助けであるという点を強調する.

最後の1つは,「クィアする」という概念を大切にすること, 「クィアされたこと」に着目するという観点である. 「クィア/Queer」とは性的少数者の運動に由来する言葉だが, 本報告は動詞としての「クィアする」ことを焦点とする.
形容詞・名詞としての「クィア」の意味は「奇妙な」「風変わりな」あるいは「(どぎつく名指す) 変態 ≒異常性愛者」等であるが, 逆に性的少数者が自身のことを挑発的に自称する際に用いられてきた名乗りの言葉でもある. そしてその背景となる精神にはクィアの動詞としての意味が深く関連していると考える.
動詞の「クィアする」の意味と実践は,「台なしにする」「ひねる」「転倒させる」「概念を再盗用する」「由来や経路を逆成する」等にあり, 規範の転回や脱構築的な意味を持つ言葉である.

本報告では, これまであまり障害学や当事者研究に連関して述べられてこなかった, この「クィアする」という態度や観点を, 障害学の研究・当事者研究の場へと敷衍していくことを試みる.
現在報告者の中では, 障害学/当事者研究/「クィアすること」これら3つの態度と知見が相互に密接に接続されることで,「自閉的にクィアする研究」と呼べるような志向となっている. "自閉的に" と冠したのは, 報告者が「文化としての自閉者 (Autist) 」である」という自認に基づいているからであるが, それ以外のアイデンティティの個人もそれぞれの立場の当事者として, 立場から, 社会の覇権性に対してクィアする研究が当然に可能である.

「(自閉的に) クィアする研究」は, 2つの方向性を内包する.
1つは前述の通り, 研究する場で・当事者研究する場で,「クィアする」こと,「クィアされた」観点に着目しそれらを尊重することである. 特に当事者研究の場でそれが生じた時, その視座は障害学にも解釈可能な知見となりえるだろう.
もう1つは, 今ある研究というものの有り方自体についてをクィアする試みである. 問いとして表現するならば, 以下の様になる.
・既存の「研究」で所与の前提, 当然の作法とされたことを, 私 (たち) に合った様式へと改変は可能だろうか?
・「研究」という語が現在意味するものは ”ずらせ” るか?
・ずらした時に「台なしにされてしまう」ことがあるとして, その内実とは何か?
クィアな観点での考察と折衝を 「研究」という概念に対して試みることも, 報告者の将来の展望である.

「自閉的にクィアする」試みとは, クィアすること・クィアな視点を通じて, 覇権が機能する構造が不具になる可能性を探ることであり, 多様性のある視点が組織やコミュニティーをより脆弱にすることであると考える.

参考文献
マサキチトセ, 2013/1/31,「わたしの〈クィア〉とあなたの〈クィア〉は違う:グローバルでないドメスティックなクィアの不可能性」, http://ja.gimmeaqueereye.org/entry/20 (2016/7/31現在)「動詞としてのクィア」の説明は以下の文章に詳しい.

倫理的配慮:
今年度に例示された研究指針の内容を順守し, 精神を尊重し, そこから発展する議論と対話に参加することを言明します.



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