障害学会HOME
障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨
ここをクリックするとひらがなのルビがつきます。
ルビは自動的にふられるため、人名等に一部変換ミスが生じることがあります。あらかじめご了承ください。
三好 正彦(みよし まさひこ) 大阪女子短期大学
■報告題目
オルタナティブスクールにおけるグレーゾーン・発達障害のある子どもの処遇に関する考察
■報告キーワード
障害のある子ども、オルタナティブスクール・グレーゾーンの子ども
■報告要旨
本研究では、オルタナティブスクールにおける発達障害のある子ども・グレーゾーンの子どもの処遇に関して探究することになる。その際に「子どもの医療化現象」を視点としている。医療化現象は、木村(2015)が指摘するように、イヴァン・イリッチやアーヴィング・ケネス・ゾラが「生活の医療化」を危惧し、医療を社会統制の一つとして用いることで、医療による監視を増大させ、患者の能力と自律性を減少させることを批判してきた。
本研究では、グレーゾーンや発達障害のある子どもたちの行為をどのようにスタッフたちが認識し、処遇を決定しているかというプロセスをコンラッドとシュナイダーの提示した「医療化」の枠組みで捉える。そして、オルタナティブスクール特有の実践にみられる諸問題や課題、その背景について検討する。
一般の学校という場とは異なるオルタナティブスクールに在籍する子どもたちは少なからず、通常の子どもたちが歩むコースから“逸脱”しているように認識される(永田)。故に、そこに通う子どもたちを受け入れる学校(スタッフ)の懐は深いというイメージもまた一般的であろう。
しかし、実際にはスタッフ(学校)と子どもたちは、互いの利害をぶつけ合いながら日々の生活が展開されている。それは学校の理念を実現させたいスタッフと、自身の「やりたいこと」の実現を目指す子どもとのコンフリクトがここかしこで生じていたのである。そして、このコンフリクトに対応する様々な対処において、しばしば「気になる子」「発達障害」「グレーゾーン」というキーワードのもと、「特別な対応」の必要性の声が聞こえる。その際、どのような子どもがこのカテゴリーに振り分けれているのか、また問題行動はどのように決定されているのか、このプロセスを明らかにする。
木村はコンラッドとシュナイダーが事例研究に基づいて、逸脱認定のプロセスに政治性が介在していることを指摘し、定義や認定の社会的構築性やそれらを取り巻く集団の活動、統制機関の利害関係を明らかにしたと述べている。本稿では、コンラッドとシュナイダーの「逸脱の医療化理論」の枠組みを手掛かりに、スタッフの証言を基に、オルタナティブスクールという一般の学校と異なる場で、どのような行為が逸脱とみなされ、そしてどのような子どもたちが特別な支援が必要であるとされるのか、を明らかにする。そして、これらの決定にどのような背景、利害、が存在しているのか、オルタナティブスクール特有の要素が深く関わっていることを示し、課題を提示することができるだろうと考える。
研究方法に関しては、非参与的観察とインタビュー調査を用いた。筆者は、2013年9月より、月に一回程度(月によっては集中的に)学校に通い、朝の時間割開始の9時から15時ごろまで観察を行っている。観察に関しては、時には朝や帰りのミーティングに参加することもあるが、基本的には非参与的な観察を行っている。データの記録に関しては、佐藤(1992)のフィールドノートを参考にした。また、話し合いの場や発表の場については音声を録音し、逐語的に整理したものを分析に利用した。インタビュー調査に関しては、半構造化インタビューを用いて行い、対象者の許可を取った上で音声を記録し、逐語的に整理した。
研究の対象となったのは、NPO法人箕面こどもの森学園である。箕面こどもの森学園は、2004年4月に大阪府箕面市で「わくわく子ども学校」としてスタートしている。『こんな学校あったらいいな』(2013)によれば、「この学校は、子どもの生活の中から生まれる興味関心を大切にし、子どもの主体性や自立性を育てる学校が日本にあってほしいと願う市民らが集ってつくったもの」とある。教育方針としては、「既存の一斉授業・教科書中心のやり方ではなく、子どもの個性を尊重し、生活体験を大切にし、一人ひとりの子どものニーズに合った学習を支援する教育方法を模索してきました」とあるように、何より子どもが学びの中心であることを軸に実践を行っている。
2015年11月現在、在籍者数は小学部22名(低学年11名・高学年11名)中学部7名である。スタッフは、学園長に校長、常勤スタッフ4名、専任スタッフが2名、非常勤スタッフ4名、ほかに学習サポーターや外部講師など多様な人材で構成されている。
本研究は、調査対象者のプライバシーの保護と人権の尊重に最大限留意し、インタビューイーおよびインタビューに登場する人物の名前はアルファベットで記載し、本人と特定できないように配慮する。さらに、調査協力者による発表資料のチェックを受けた上で、発表を行うことになっている。
引用文献
木村佑子、2015、『発達障害支援の社会学: 医療化と実践家の解釈』東信堂。
Kitsuse,J.I・Spector,M.B,1977,Constructing Social Problems,Menlo Park, CA: Cummings, (1990、 村上直之,中河伸俊、鮎川潤、森俊太訳『社会問題の構築─ラベリング理論をこえて』マルジュ社。)
永田佳之、2005、『オルタナティブ教育‐国際比較に見る21世紀の学校づくり』新評論。
佐藤郁哉、1992、『フィールドワーク 書を持って町へ出よう』新曜社。
辻正矩・藤田美保・守安あゆみ・中尾有里、2013、『こんな学校あったらいいな 小さな学校の大きな挑戦』築地書館。
>TOP
障害学会第13回大会(2016年度)
|