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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨
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高橋 眞琴 (たかはし まこと) 鳴門教育大学
佐藤 貴宣 (さとう たかのり) 大阪市立大学都市文化研究センター
■報告題目
特別支援学校における二重の専門性による教職把握
■報告キーワード
特別支援学校 / 専門性 / リハビリテーション
■報告要旨
近年、特別支援学校をめぐる議論は枚挙に暇がないほど活発に交わされており、また特別支援教育をテーマとする研究は多方面からの耳目を集めている。とりわけ、教師の専門性の向上と、他機関との連携協力は、特別支援教育体制を強化・発展するに当たっての重点項目とされてきた。
特別支援学校の教師には、特別支援教育に関わる知見を幅広く摂取し、自らの専門性を日々向上/更新させていくことが要請される一方で、他職種・他機関との、あるいは保護者との連携/協働を通じた職務遂行が求められている。
ここで一つ注意すべきなのは、特別支援学校の教師たちには、通常学校の教師たちに求められるのとは異なるタイプの専門性が要請されうるということである。教職の専門性として一般的に想起されうるのは、学級経営や教科指導、あるいは生徒指導に関わる資質や能力であるだろう。ところが、特別支援学校の教師たちにはそれとは全く異なる知識や技能、すなわち医療やリハビリテーション、あるいは療育に関わる知識や技能への習熟が求められる。特別支援諸学校に勤務する教員を対象に行われた調査でも、教職経験の長短に関わらず「疾病や障害/健康管理についての知識」「補装具・自助具の知識と取り扱い方」「摂食指導の技術」「医療的ケアの知識」などの項目が教員の保有すべき専門性として共通に指摘されていた(守屋他 2012)。このような、特別支援学校に特有の専門性や教職のあり方は、教師たちと保護者や他の専門職との関係を形作る重要なバックボーンとなっている。
本報告では、ある地方都市に所在する知肢併置の特別支援学校(以下、X支援学校)の肢体不自由教育部門小学部でのフィールドワークと教師へのインタビューに基づいて、特別支援学校における教師の実践とそれを制約ないしは可能とする関係論的な構造を析出することを目的とする。それにより、今日の特別支援学校における教職の特徴の一端を明らかにすることを目指した。X支援学校は、知的障害教育部門と肢体不自由教育部門に分かれており、それぞれに小学部、中学部、高等部が設置されている。児童生徒数は53名で(2013年4月現在)、知的障害、肢体不自由、重複障害といった複数の障害種を併せ持つ児童生徒が在籍している。特に、X支援学校の肢体不自由部門(小学部)に支援ボランティアとして、2013年4月~2014年3月の間、週1~2回赴き、教員や支援員が行う教材準備、給食準備、身体介助などを補助しながら、観察活動に従事した。参与観察においては児童・生徒、保護者、あるいは大学教員など他機関の専門家と教職員との間で自然に交わされる言語的・非言語的コミュニケーションに注目し、その様子をフィールドノート(FN)に記録した。また機会を見て、教員や支援員を対象として、職業生活に関する半構造化インタビューを実施した。インタビュー内容は、音声データを収集後、正確な逐次的トランスクリプトを作成した。本稿は、こうして得られた質的なデータをリソースとして成立している。なお、本研究で引用する全てのデータは、学術目的での使用を許諾されている。
本報告においては、アカウンタビリティが強調される2000年代の特別支援学校における教職の特徴を以下のように整理した。X支援学校において、教師たちは、対外的に医療や療育、リハビリテーションに関わる知識や情報を保有する障害児教育の専門家として自己提示することを求められる一方で、校内では、他専門職との分業関係のなかで、教育の専門家としてアイデンティティを立ち上げ教育活動を組織化するというミッションを背負ってもいた。すなわち、特別支援学校における教職の専門性は、リハビリテーションと教育、双方への同時的なコミットメントによって“二重の専門性”として形作られていた。
特別支援学校における教職の専門性をめぐる従来の議論の文脈では、医療的ケアやリハビリテーションに関わる知識や技法の重要性のみが過度に協調される傾向にあったが、具体的な教育活動や教職のアイデンティティに関わる論点を改めて示した。
本報告では、医療やリハビリテーションに関わる専門知をめぐって特別支援学校関係者の間で織りなされる相互作用を分析・記述したに留まったが、教職の専門性それ事態に焦点化し、授業内容の編成過程や、個別具体的な授業実践に関する緻密な分析を積み上げていくことが要請される。
文献
守屋朋伸・冲中紀男・坂本裕「特別支援学校において経験の浅い教員が継承したい,経験の浅い教員に継承して欲しい専門性に関する一考察」『岐阜大学教育学部教師教育研究』第8号, pp.93-98,2012年
注
本報告内容は,『関西教育学会研究紀要』 第15号(2015年8月)に掲載予定である。
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