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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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菊池 尚人 (きくち なおと) 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科

■報告題目

フランス、アメリカの障害者向け電子図書サービスとデジタルライブラリーのモデル考察

■報告キーワード

電子図書サービス / 法制度 / デジタルライブラリー

■報告要旨

1. フランス国立図書館の電子図書サービスと音声合成読み上げ
・フランス国立図書館はフランス国内の他の図書館と共同で1997年から電子図書サービス:Gallica http://gallica.bnf.fr/ を運用。
・200万を超える電子ファイルがアクセス可能。毎週数千のコンテンツが増加。
・過去の新聞や雑誌も電子化。例えば、日刊新聞のLe Figaroでは1854年から1942年までの約29,000日分の紙面が特段の認証なしに日本からも閲覧可能。
・2013年からはタブレットやスマートフォン向けの専用アプリも提供。
・Gallicaには音声合成読み上げ機能が実装。ブラウザにおけるOCR認識からのText To Speechではあるが、アルファベット表記であるため、ほとんど誤りなく音声読み上げが可能。

2. フランスの障害者向け電子図書サービスと関連法制度
・2009年以前は、障害者団体はBrailleNet等の電子図書館サービスに関して、それぞれの権利者団体と個別に包括契約を締結して、権利を処理。
・2010年からは、DADVSI法関連政令の施行により、国から認定された障害者団体等は次のプロセスでフランス国立図書館のPLATONから電子ファイルを入手可能。
1)認定団体がフランス国立図書館に必要な電子ファイルを連絡
2)フランス国立図書館が出版社に要求
3)出版社がフランス国立図書館経由で電子ファイルを提供
・フランスは、2001年のEUによる情報社会指令に基づき、障害者の著作物利用の例外規定を2006年に初めて法制化。フランス国内の出版社等に電子ファイルの提供を義務付けるなど、障害者団体等にとって利便性が高い内容。
・2009年からフランス国立図書館は出版社等から提供された電子ファイルの唯一義務的なアーカイブ。その機関であるPLATONは法定の窓口として、政令で認定された障害者団体のリクエストを出版社等に伝え、その電子ファイルを入手し、障害者団体に提供。

3. アメリカの障害者向け電子図書サービス
・アメリカにおける視覚障害者向け電子図書サービスでは、Bookshare https://www.bookshare.org/ が代表的。30万近くのコンテンツを提供。
・Bookshare組織内でスキャンして、コンテンツをアップロードするだけでなく、ボランティアがスキャンし、それをアップロードしたり、大学等教育機関がスキャンしたデータを提供したりするなど、多様な主体との協同が特徴。
・American Printing House for the Blindが運営するNational Instructional Materials Access Centerが保存する教科書・教材ファイルをアクセシブルなフォーマットに変更して、各州と出版社との契約を踏まえて個別障害者教育法(IDEA)の対象とする生徒に提供するなど、特別支援教育のインフラ機能も提供。

4. デジタルライブラリーのモデル考察
・フランス国立図書館は、Europeana http://europeana.eu/ というヨーロッパの図書館博物館等のポータルサイトの中心的な施設。Europeanaにはヨーロッパの大規模施設から小規模施設まで、2,000を超える図書館、博物館等が参加。
・アメリカ発のGoogleブックス http://books.google.co.jp/ は数百万冊のスキャンを行い、パブリックドメインのコンテンツであれば、全文が閲覧可能。また、各国の大学図書館との連携も推進。
・電子書籍の拡大とともに読書アクセシビリティは、新刊本に限れば向上。しかしながら、膨大な過去の書籍をアクセシブルなものにするには
①ネットワーク化して、所蔵先を明らかにすること
②スキャン等によりデジタルデータを作成すること
③デジタルデータを共有すること
の三点が必要。Europeanaは①に関しての、Googleブックスは②に関しての先進事例。
・視覚障害者等に係る複製等については、日本の著作権法でも著作権が制限されており、障害者向けに包括的なデジタルライブラリーを構築することは、一般のデジタルライブラリーを構築するよりも権利処理は簡便。
・「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が2016年4月から施行。このような状況を踏まえて、視覚障害者向け電子図書サービスを拡大するために、国立国会図書館、視覚障害者情報提供施設、公立図書館、大学図書館などがネットワーク化を推進して、それぞれが作成したデジタルデータを共有する横断的なシステムを構築するべき。

 なお、本調査研究においては、機微情報等の倫理的配慮を特段要するものは扱っていない。



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障害学会第12回大会(2015年度)