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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨
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須田 真介 (すだ しんすけ) 首都大学東京大学院博士後期課程
■報告題目
身体障害者療護施設における自治会運動
■報告キーワード
身体障害者療護施設 / 入所者自治会 / 脱施設化
■報告要旨
1 療護施設における自治会設立の経緯
A療護施設の事例をもとに、療護施設における自治会設立の経緯を見る。A施設は、1972年に身体障害者療護施設が法制化された年に設立された、日本でも初期に作られた療護施設の一つである。A施設では、開設の翌年、入所者の要求により、自治会がつくられる。利用者が自治会をつくろうと考えた理由は、施設の生活を改善するために、園の運営を決める会議に入所者が参加したいと考えたことである。施設設立当時は、入所者は4人部屋に押し込められ、自由な外出や飲食も禁止されていた。また起床や就寝の時間も自由ではなかった。こうした不自由な生活を改善すること、そのために生活のルールを決める場に自分たちが参加したいと考えたところから自治会が設立されることなった。
2 自治会による施設生活の改善
A施設において、自治会が行った施設生活の改善には以下のことがあった。
①施設の運営への自治会の参加
施設生活を改善する基礎として、園の運営への自治会の参加を求めた。経営者である園と、働く側である労働組合と、入所者の代表である自治会が、それぞれ独立した対等な存在として園の運営に参加することを求めた。
②入所定数削減
施設の入所定数を100名から50名に切り下げることを行政に要求し、実現した。これは入所者一人当たりが生活するのに十分なスペースの確保を求めたことを意味する。
③職員の増員
十分な職員数の確保により、自らの行動の自由が保障されること、すなわち介護保障を要求した。
④生活の自由化
外出・外泊の自由化、飲酒・喫煙の自由化などを求め実現する。これは、入所者が施設を「医療管理の場」から「生活の場」に変えようとしたことを意味する。
⑤ケアの質向上
1976年に起きた誤嚥による入所者の死亡事故の原因が職員の勤務態度の悪さに起因するとして、自治会が職員に反省と改善を求める。
3 自治会全国ネットワークの組織化と取組
1994年にA施設の自治会を含めたいくつかの自治会が協同し、「療護施設自治会全国ネットワーク」を立ち上げる。この会では、全国の療護施設の実態調査を行い、それにもとづき厚生省に交渉を行うなど、療護施設利用者の生活環境・生活の質の向上を目指した運動を行ってきた。近年では、全国調査のなかで地域移行の現状と課題を調査するなど、脱施設化にむけた取組にも力を入れている。
また同会が隔月で行っている会議において、スカイプを用いて全国の施設入所者と情報交換を行っている。その際、地域生活をしている元・施設入所者にも参加してもらい、地域生活者の視点から自治会活動や施設生活を見ることも心がけている。当事者の立場から、地域の状況と施設の状況を分析し、施設入所者が地域移行を行うことを側面的にサポートしている。
4 自治会の現状と課題
療護施設における全国的な傾向として、入所者の高齢化、障害の重度化があげられる。同時に自治会員の高齢化・重度化も進んでいる。こうした傾向はA施設においても例外ではなく、自治会活動の停滞がみられる。そのため、若いメンバーの参入による自治会活動の活性化が課題としてあげられる。施設生活者のみでは自治会活動が行えない場合は、地域で生活する当事者に自治会活動のサポートを求めて行くことも課題になる。またそもそも自治会自体が設置されていない施設においては、その設置が求められる。加えて、施設に自治会がつくられても、かたちばかりの御用自治会になってしまっては意味がない。自治会が独立性を担保する仕組みを整えることも課題となる。具体的には、園や職員組合と対等な立場に立ち、運営に参加していく環境を整えることが必要になる。
施設における自治会の存在は、オンブズマンの存在とともに、入所者の権利擁護にとって重要である。施設の内部から日常的に入所者の権利を守って行くために、自治会の果たす役割は大きい。
本報告では、倫理的配慮として、施設名はアルファベットで記載し、特定できないようにした。
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