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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨
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山下 幸子 (やました さちこ) 淑徳大学
■報告題目
障害当事者運動と介護派遣・公的介護保障要求──主に1980年代大阪における運動から
■報告キーワード
障害当事者運動 / 介護派遣 / 介護の事業化
■報告要旨
1. 目的・対象・方法
本報告の目的は、1980年代大阪の障害当事者運動において、公的介護保障という発想に至り、その実現を目指してきたプロセスを明らかにすることである。
本報告が大阪の障害当事者運動を対象にするのは、大阪の障害当事者運動が、1970年代からの障害者と健常者との関係性を問い健常者中心で構成されていく社会のありようを捉えなおし変革しようとする運動から、その成果を継承しつつも、あらゆる障害者の地域生活に必要な公的介護保障運動へと移り変わる様相の描出に重要だと考えられるためである。
方法は、当時に刊行された通信や、学習会やイベント等での配布資料、障害者解放センターの運営会議資料等を元にした資料による分析と、当時の運動を担ってきた方々へのインタビュー調査の方法を採る。本報告の研究対象については、定藤邦子による大阪青い芝の会全体の運動史研究(定藤、2011)が先行研究の第一にあげられる。本報告は、その成果をもとに、さらに「介護」をめぐる状況に焦点化していく。
2. 倫理的配慮
文献・資料を用いた記述については、『障害学研究』執筆要項を遵守する。インタビュー調査については、プライバシー保護に努め、調査協力者の同意を得ての公表とする。なお、本研究は淑徳大学研究倫理審査委員会の承認を得ている。
3. 研究成果
1970年代後半からの障害者解放運動の混迷期(山下、2008)を経て、まず障害者と健常者が“共同”して、“組織的”に運動を進める方針がとられたのだが、その背景には、「個と個の関係」だけでは、あらゆる障害者の自立した地域での暮らしには至らないという認識があった。運動の混迷の中で、軽度障害者や、独力で介護者を見つけ指示が可能な障害者たちは運動を離れていく傾向にあった。結果、独力では介護者を見つけることの難しい重度障害者や、大勢の在宅・施設障害者の生活課題をどうするかが、運動の主題となっていったのである。そして、青い芝の会の活動に随伴し介護を担ってきた「グループゴリラ」には、無給で毎日のように介護に入らざるを得ない状況が生まれていた。その介護負担の大きさは障害者の自立生活を危うくした。
そうした運動の転換点となったのが、1980年から大阪青い芝の会が行い始めた「生活要求一斉調査」であった。調査を通して、青い芝の会とその活動を共にした健常者達は、障害者から切実な要求として出される一つが介護についてであるのだが、それは専ら家族の責任とされ、障害者本人や家族の負担によってなんとか保たれている脆弱な状況にあり、制度として無施策であるという認識をもつ。そして、「障害者が地域で生活していくための介護保障の責任は行政にあることを明確におさえる」という認識に立つことになる。介護を、介護する者とされる者との関係性の問題に焦点を置き、運動内部で解決すべき問題と捉える方向性から、制度化・システム化を目指す方向へと移行する契機となったのである。
その後、1986年後半から87年にかけて、大阪では介護の事業化に関する議論が行われてきた。これまで「人間関係」として行われてきた介護を事業化する。これは、生活保護他人介護料等の介護制度を元手に介護を有償化し、介護派遣や介護者募集をシステムとして行うことを意味する。当時の資料では、「生活に欠かせない介護は今後多くの障害者のニーズに応えていくためには無償労働として行うのではなく、社会的に権利として保障される方向に向けて労働としての位置に介護を近づけていくべきではないか」という議論が続けられてきたとある。そして、障害者が自立した生活を行うにあたり、どのような介護がどのくらい必要なのかを明確にし、行政に要求していく根拠とするという目的も示された(大阪中部地区障害者解放センター、1988、p3)。
1980年代障害者運動での介護に関わる認識の変化をまとめる。介護保障の責任は障害者と健常者との個の関係のなかで交わされるものではなく行政にあるという認識は、運動の方向性を大きく変えていく。それとともに、運動の形態としても障害者と健常者が共同しての組織として行政交渉を重ねていくスタイルに、そして行政との交渉を重ねていくために実態を把握し、要求の根拠を明確に提示する方向へと移っていくことになる。そして、介護保障を行政に求めるとともに、障害者運動組織自らが介護派遣をシステム化し、供給していくこととなる。そこには、介護を有償化し、システム化することで社会的な労働へと向ける方向性があったのである。
参考文献
・大阪中部地区障害者解放センター(1988)『中部障害者解放センター通信 88年5月号』
・定藤邦子(2011)『関西障害者運動の現代史―大阪青い芝の会を中心に』生活書院
・山下幸子(2008)『「健常」であることを見つめる―1970年代障害者/健全者運動から』生活書院
謝辞
本研究はJSPS科研費25780348の助成を受けている。
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