障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨ここをクリックするとひらがなのルビがつきます。 ルビは自動的にふられるため、人名等に一部変換ミスが生じることがあります。あらかじめご了承ください。 阿地知 進(あぢち すすむ) 金沢大学大学院 ■報告題目 割当雇用制度の限界と新しい障害者雇用への動き ■報告キーワード 障害者雇用・割当雇用制度・ディスアビリティ ■報告要旨 割当雇用制度(義務雇用制度)の法的根拠は、「障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年七月二十五日法律第百二十三号)」である。 この法律の改正案は、平成25年6月19日に交付されており、障害者の権利に関する条約の批准(平成26年2月19日より日本において効力を生ずる)との関係で、これから議論が進められることも予想される。 障害者雇用の推進制度は,世界的には,割当雇用制度から始まる。第一次世界大戦後の傷痍軍人への対策が障害者対象へと拡大して行ったものである。 現在、各国の制度は、割当雇用制度のみ、割当雇用制度を廃止して差別禁止法のみ、両者の併用と多様であるが、全体の流れは割当雇用から差別禁止法による制度へと動いている。 理念でみると、両制度には、事業主に、割当雇用制度は、割当数に達するまでは求人状況及びその内容にかかわりなく障害者に合った仕事を作り出す、という課題を課すことになり、差別禁止法は、求人内容に合致する障害者であれば就業保障を課す、という相違は確かにある。しかし障害者に合理的配慮をして就労保障することは同様である。すなわち、入口の就業において、障害者に合った仕事を作り出して障害者を雇用するのか、求人内容に合った障害者は拒まずに雇用するのか、という相違があるだけである。 したがって理念上は、割当雇用制度のもとでは「雇用率を達成しているから障害者を除いて雇用する」(差別禁止法が有効)、あるいは差別禁止法のもとでは「この求職内容だけはどうしても障害者には無理でできません」(割当雇用制度が有効)という事態が生じない限り両制度の相違やメリット・デメリットは顕在化しないことになる。そしてそうした事態が生じるときは、障害者雇用が大幅に進んだ時であり、推進方策の在り方は次の段階であろう。すなわち現段階では、理念通りに運用されるのであれば、両者は,手続き上も、同様なのである。両者の運用によるメリット・デメリットは障害者の就業・就労上も生じない。 しかし、障害者と言う視角からは、どちらの制度にしても、結局、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目としているということに他ならない。職能ではなく割当てられた数を雇用することになる割当雇用制度、職能に対しては平等になるような制度であるが、雇用の絶対数で、多くの障害者を雇用することに、やはり、健常者の恩恵や同情を背景に、障害者雇用促進法に基づく、経営者の不利益を解消することを眼目とすることになる差別禁止法である。 また、障害者個別の合理的配慮を課す点も、事業主の側の合理的な理解は見られず、公的支援で軽減するというのも、障害者の雇用環境おけるディスアビリティを形成するものである。 次に、割当雇用制度の、日本での歴史であるが、諸外国の制度が先に行く中で、(数値等の)十分な検討がなされないまま法制化がされ、国民レベルでの障害者の理解が未発達なために、障害者雇用が低迷していたことがわかる。また、強制雇用という議論にまでなった点も興味深い。 ただ、ここで気になることは、障害者を多く雇っていることが、経済競争上不利になるという“不公平感”が、当然のこととして制度に反映している点である。ここに、障害者は「デキナイ労働者」と言うことが、暗黙の理解となり、この点がディスアビリティをもたらすと考える。 日本の障害者雇用施策は、割当雇用制度によって事業主に一定割合の障害者を雇用することを義務づけ、 障害者を雇用できない事業主から納付金を徴収し、 それを財源に障害者雇用を積極的に進める事業主に対し、調整金や助成金を支給するというものである。割当雇用制度および障害者雇用納付金制度を中心としつつ、重度障害者の雇用促進のためのダブルカウント制度や、 大企業における障害者の雇用促進のための特例子会社制度などを組み合わせた制度となっているのである。しかし、このような、障害者の為に行われている制度が“特別の意味を持った雇用”を生み、障害者の雇用に、いくつものディスアビリティを形成していると言える。 今回は、このような 割当雇用制度の規定にはあまり当てはまらないような規模の企業家団体が、障害者雇用についての活動を行っていることに着目し、調査を始めている報告を行う。 障害者雇用促進法においては、従業員の2%という障害者の雇用を、企業に割り当てている。しかし、従業員の数が49人以下の企業では、この規定からは外れることになる。 中小企業同友会という、おそらくほとんどが障害者雇用促進法には関わってこない企業団体で、障害者雇用の増加に向けての活動が見られる。 K市の中小企業同友会障害者問題委員会副委員長D氏が精力的に進めている活動で、全国に向けて活動している。根本的に費用対効果などと言う価値観で雇用と言うものを考えていないその活動内容や成果の現状などを調査し、この活動で雇用された障害者にも面談し、その雇用にディスアビリティが存在するのか等を分析して報告する。 >TOP |