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鈴木 良 (すずき りょう) 琉球大学

■報告題目

カナダにおける知的障害者入所施設の閉鎖運動の動向

■報告キーワード

カナダ / 知的障害者 / 脱施設化

■報告要旨

　近年一部の州で州立知的障害者大規模居住施設の閉鎖を実現させたカナダの動向については海外及び日本の研究では十分に明らかにされていない。そこで本研究では、カナダ全域における知的障害者入所施設の閉鎖運動の動向について、知的障害者の親の会と本人の会の運動に着目しながら検討したい。研究の方法は、平成25年8月15日～9月1日、平成26年9月13日～9月26日(予定)までのフィールドワーク調査と文献研究を実施した。
　第一に、カナダ全域の施設閉鎖の実態としては、1981年にブリティッシュコロンビア州、1982年にはニューファンドランド・ラブラドル州、1987年にはオンタリオ州において、州政府によって州立知的障害者大規模居住施設(100床以上．以下、大規模施設と略)の閉鎖が宣言される。1992 年にニューファンドランド・ラブラドル州、1996年にブリティッシュコロンビア州、2009年にはオンタリオ州において全ての大規模施設が閉鎖された。1986年には10,000名の知的障害者が31の大規模施設で生活していたが、2010年の時点ではその数は大幅に減少し、約900名がマニトバ州、サスカチュワン州、アルバルタ州の3つの大規模施設で生活している(PFC and CACL Joint Task Force on Deinstitutionalization2010)。一方、中規模施設及び他施設での入所の問題が依然として残っているのが現状である。
　第二に、施設閉鎖運動の背景には、1970～1980年代は親の会が、1990年代以降は親の会と共に本人の会が主導していることが分かった。まず、1970～1980年代までの運動として、1970年代後半にウッドランズ州立大規模施設に息子を入所させていた母のジョー・ディッキーを中心とするウッドランズ親の会による施設閉鎖要求活動がカナダ全域の脱施設化運動に多大な影響を与えた。1980年代初期以降にはブリティッシュコロンビア州のインクルージョン・ブリティッシュコロンビアやオンタリオ州のコミュニティリビング・オンタリオを中心に州単位の親の会が施設閉鎖運動を展開させる。同時に、全国親の会の組織であるカナダ地域生活協会(CACL)も1973年決議(入所施設を地域生活に代替させる決議)や1979年決議(ゼロアドミッションの要請決議)を行って施設閉鎖運動を展開させた。
　次に、1990年代後半以降の運動としては、ブリティッシュコロンビア州において、施設閉鎖後の施設内の経験についての証言の収集活動、ウッドランズ記念庭園の建設、虐待を告発するレポートへの反応、施設解体セレモニーの主催といった入所施設の遺産を次世代に伝える活動において、本人の会が組織的に関与していることが明らかになった。また、サスカチュワン州では大規模施設のバリー・ビュー・センターの閉鎖を求めて、1990年代以降からピープルファースト・サスカチュワンが親の会と協働してロビー活動を展開した。全国レベルでも2002年にピープルファースト・カナダがCACLと特別委員会を結成しカナダ全域の施設閉鎖を進めるための活動を展開している。2007年にはピープルファースト・カナダのメンバーが入所施設で生活する人たちのための啓発活動としてプレアリー地帯を横断する運動を展開し、この模様はNFBドキュメント「The Freedom Tour」で描かれた。
　カナダの入所施設閉鎖運動の特徴は、親の会と本人の会が協働で行うアドボカシー活動にある。この点については、親と本人の会の協働の可能性が示唆されており、どのように本人の会が自律性を保持しながら運動を展開させているのかを今後は考えていきたい。

参考文献

Panitch, M.(2008)Disability, Mothers, and Organization, A Routledge Series
People First of Canada and Canadian Association for Community Living Joint Task Force on Deinstitutionalization(2010)The right way-A guide to closing institutions and reclaiming a life in the community for people with intellectual disabilities.
鈴木良(2014)「カナダ・オンタリオ州における州立知的障害者入所施設閉鎖の歴史的過程-コミュニティリビング・オンタリオの活動に焦点を当てて-」『京都女子大学生活福祉学科紀要』10, 1-9

障害学会第11回大会（2014年度）