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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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土屋 葉 (つちや よう) 愛知大学

■報告題目

障害者世帯への災害の中長期的な影響

■報告キーワード

災害 / 中長期的影響 / 障害者世帯

■報告要旨

 本報告の目的は、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震およびこれにともなって発生した津波、その後の余震により引き起こされた大規模地震災害が、いわゆる「社会的弱者」といわれる、障害をもつ人およびかれらがいる世帯に与えた、中長期的な影響を明らかにすることである。
 障害をもつ人は災害のリスクに対する脆弱性が高いといわれている。このことは、災害発生直後の被害を深刻なものにすることはもちろんである。回避行動や避難行動、情報入手の遅れ、避難所・仮設住宅における物的環境面のバリア、介助者の不足等、震災被害が集中的にあらわれやすいといったことは、すでに多くの指摘がある(田中 2007、田宮ほか  2013)。
 さらに一般的に災害は格差を拡大するといわれる。「相対的であるにせよ、弱いものにより甚大で回復しにくいダメージを与え」る(田中 2007: 137)ため、かれらの長期的な暮らしの再建は困難となり、次に発生する災害に対してもさらに脆弱性を高めるという(Wisner 2004=2010)。また、阪神・淡路大震災後における多くの調査が明らかにしたのは、時間の経過とともに、被災者が抱える問題がみえにくくなっていくことであった(額田 1999)。 このことは災害以前からの、かれらの日常的な生活の困難や、また社会保障制度を含む公的支援の構造的要因と密接に関連している。いいかえれば、災害が日頃は隠されている社会の問題構造を顕在化させるのである。
 以上の指摘をふまえ本報告では、災害発生直後の激変期ではなく、災害発生後数年を経過した段階における、障害をもつ人やかれらを含む世帯に与える災害の影響の分析を試みる。報告では「A市内被災者生活状況調査」により得られたデータを用いる。本調査は、「東日本大震災後の生活再建支援研究グループ」が2013年8~9月に実施した、質問紙調査である(回収率21.9%、有効回答数586)。さらに継続調査への協力を表明した対象者のうち「社会的弱者」が含まれる世帯を抽出し、フォローアップインタビュー調査を依頼、2014年3月承諾が得られた12世帯への調査を実施している。これらのデータから、障害をもつ人を含む世帯を中心に分析・考察していく。
 災害は直接的で強いインパクトを与え、それが障害をもつ人およびかれらを含む世帯に、中長期的に影響していくことはもちろんである。しかしこの際、災害による住環境、仕事、世帯構成等への影響、あるいは災害による複数の制限や、障害をもつ人を含めた家族成員の心身状態の変化などと相まって、複合的に影響していくことが推測される。これらに対しては、経済的資源、医療・介護などの社会的資源や親族ネットワークなど、公的/私的な複数の資源を用いることで対応されるが、資源にアクセスできないことは、逆に変化への対応を困難なものにすることも想像に難くない(田宮ほか 2013)。
 さらに、影響が複合的であるとするならば、長期的にはよりその影響はみえにくくなる。また、時間の経過とともに災害以外にも不利な条件や、困難に直面していくことがある。この場合、生活全体の状態を鑑みたうえで、複合的な影響のひとつとして「被災」をとらえていく必要があるだろう。そのためには、複数同時に、継続的に集積していく生活上の困難が、どのような原因により発生しているのか、被災との因果関係はあるのか、そして、被災した障害をもつ人や世帯は、どのような資源を利用してそれらの困難に対応したのか、あるいは対応できなかったのかを、より明確にすることが必要となるだろう。

■文献
額田勲,2013,『孤独死:被災地で考える人間の復興』岩波書店.
佐藤恵,2010,『自立と支援の社会学:阪神大震災とボランティア』東信堂.
田中淳,2007,「災害弱者問題」大矢根淳・浦野正樹・田中淳・吉井博明編『災害社会学入門』弘文堂,136-141.
土屋葉,2014,「東日本大震災における障害をもつ当事者による/への支援活動」『東海社会学会年報』6,25-43.
田宮遊子・土屋葉・井口高志・岩永理恵,2013,「脆弱性をもつ世帯への災害の複合的影響:住宅・就労・ケア・移動にかかわる問題に焦点をあてて」『季刊・社会保障研究』49(3),299-309.
Wisner, Ben. Ed., 2004, At risk: natural hazards, people's vulnerability and disasters. Psychology Press =2010岡田憲夫監訳『防災学原論』築地書館.



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