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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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石島 健太郎 (いしじま けんたろう) 東京大学大学院人文社会系研究科

■報告題目

障害学を存立基盤とは何か——反優生思想とAbleism論の比較から

■報告キーワード

Ableism / 反優生思想 / 障害の社会モデル

■報告要旨

 本報告は、日本の障害学における反優生思想と、英米の障害学を中心に議論されているAbleismというふたつの概念を対比することを通じて、とくに日本の障害学の存立基盤をより精緻に理解することを目的とする。
 今回はとくに、社会学の見地からその考察をおこなう。たしかに、障害学は学際的な領域であり、連子符社会学としての位置にあるわけではない。にもかかわらず社会学の立場から障害学の基礎付けを議論しなくてはならない理由は、報告者の能力の限界もあるけれども、障害を対象とする社会学の拡散状況にある。たとえば、先に横浜で開催された第18回世界社会学会議では、障害にかかわる報告は身体社会学や臨床社会学、スポーツ社会学、女性学といった部会に散逸している。これはそれぞれの研究者が各自の関心や方法から障害という事象に取り組んだことの帰結であろうが、こうした個々の研究に通底する障害学の基盤が確固としたものでなければ、これらの研究の間での対話や蓄積は阻害されてしまうだろう。よって、障害学を専門とする研究者の多くを社会学の訓練を受けたものが占めることに鑑みても、社会学の視座からその存立基盤を問うことに一定の必然性があることは論を俟たない 1)。
 さて、障害学ないし障害を対象とする社会学によって半ば金科玉条的に採用されてきた学の基盤は、従来、その黎明期に提出された「障害の社会モデル」(Oliver 1990=2006)――障害を社会的な構築物とみなす広義の構築主義的発想――だったといえよう。しかし同時に、その登場爾来この社会モデルには幾度となく批判があり、障害学を基礎づける理論的枠組みがいかなるものである(べき)かは再考を迫られている(Hughes and Paterson 1997; Shakespeare 2001; 星加2013)。
 こうした問題意識のもと障害学の存立基盤を議論した堀智久(2014)の『障害学のアイデンティティ――日本における障害者運動の歴史から』は、これまで顧みられることに少なかった障害者の親や専門家の運動の歴史を紐解くことを通じて、日本の障害学、あるいはこれが依拠する障害者解放運動を規定する、「反優生思想」という概念を提示した雄篇である。しかし、反優生思想という概念によって、たしかに障害の社会モデルがもつ隘路は回避されるように思われるものの、それを「日本固有の」ものとして提示することには疑問が残る。なぜなら、近年欧米圏の障害学においてAbleismという概念が提唱され、堀のいう反優生思想とおおよそ同様の議論がおこなわれているように思われるからだ。
 もちろん、日本における反優生思想の萌芽が、欧米圏のAbleismの議論よりも時間的に先んじていることをもって、日本の障害学の固有性を主張することは可能だろう。また、そうだとすれば、堀の提示した概念は日本という文脈を越えて、障害学を基礎づける共通の基盤となりうるかもしれない。しかし、それでは日本の障害学の固有性はもはや時間的な先行のみに求められることになってしまう。
 逆に、一見して同じと思われる反優生思想をめぐる議論とAbleismをめぐる議論に差異があるのならば、その差異に注目していくことは、日本の障害学の固有性をよりつぶさに理解する助けとなるだろう。
 こうした関心のもと、本報告はAbleismという補助線を引くことによって、堀の議論、ひいては障害学の基礎付けに貢献するものである。
 本報告は以下のように構成される。まず、堀の議論およびAbleismをめぐる議論を概観する。次に、両者の主要な論点が比較され、それらが多くの点で共通すること、しかしある一点で決定的に異なることを示す。すなわち、両者は障害者/健常者というカテゴリを維持するか否かという点で対極的であることが示される。最後に、そうした差異が障害学の後続する研究にどのような差をもたらすのかを提示する。

[注]
1) 法学では、同様の関心から新田(2012)が障害者法学の成立存否を議論している。

[文献]
星加良司,2013,「社会モデルの分岐点――実践性は諸刃の剣?」川越敏司・川島聡・星加良司編『障害学のリハビリテーション――障害の社会モデルその射程と限界』生活書院.
堀智久,2014,『障害学のアイデンティティ――日本における障害者運動の歴史から』生活書院.
Hughes, B. and K. Pateson, 1997, “The Social Model of Disability and the Disappearing Body: Towards a sociology of impairment,” Disability & Society, 12(3): 325–40.
新田秀樹,2012,「日本における障害者法学の成立可能性——障害者基本法を素材とした試論」『大原社会問題研究所雑誌』640,33-47.
Oliver, M., 1990, The Politics of Disablement: A Sociological Approach, Basingstoke: Palgrave Macmillan.(=2006,三島亜紀子・山岸倫子・山本亮・横須賀俊司訳『障害の政治――イギリス障害学の原点』明石書店.)
Shakespeare, T., and N. Watson, 2001, “The Social Model of Disability: an Outdated Ideology?” Research in Social Science and Disability, 2: 9–28.



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