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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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松本 理沙 (まつもと りさ) 同志社大学大学院

■報告題目

障害者のきょうだいが持つ当事者性の変遷過程―「京都きょうだい会」の活動の分析から

■報告キーワード

障害者のきょうだい / きょうだい会 / 当事者

■報告要旨

1. 本研究の目的と背景

 本研究の対象は、「障害者のきょうだい」(障害者を兄弟姉妹に持つ者)である(以下「きょうだい」と表記する)。研究目的は、きょうだいが持つ当事者性の変遷過程及びそれに影響を及ぼした要因について、きょうだいを対象としたセルフヘルプ・グループである「きょうだい会」、特に「京都『障害者』を持つ兄弟姉妹の会」(京都きょうだい会)の活動の分析を基に考察することにある。
 「きょうだい」の役割は、時代と共に変化している。吉川(2002)は、「障害(困難・課題)をもつ『当事者』と、それを支える『家族』という位置づけが強く、家族もまた困難や解決すべき課題をもつ当事者であるという側面が重要視されてこなかった」と指摘する(吉川2002:105)。高瀬・井上(2007)は、きょうだいについて、「教育者・支援者、または親亡き後の養育代行者としてのそれから、支援される当事者に変化してきている」と位置づけている(高瀬・井上2007:67)。
 また、「きょうだい会」の役割も、変化している(前嶋・米田2003、松本2011、松本2012、広川2013)。本研究では、京都きょうだい会での活動の変遷に焦点を当て、きょうだいが持つ当事者性の変遷過程及びそれに影響を及ぼした要因について考察する。

2. 研究方法

『京都きょうだい会だより』等、きょうだい会に関する文献資料について、きょうだい会でのフィールドワークによって得られた知見も踏まえながら分析を行った。

3. 分析結果

 京都きょうだい会(1983年結成)の主な活動目的は、次の3点に集約された。
 第一に、「『障害者』本人の課題に取り組むこと」である。これは「障害者」自身の今の日常生活を少しでも豊かにしていくことを指す。発足から1980年代前半は、会の存在をアピールするために「障害者」本人の余暇活動を実施した。その時の課題として、きょうだい会として取り組むには負担が重く、意義も実感出来ず、長続きしなかったことがある。その後、80年代後半から90年代前半まで、自分自身の障害のある兄弟姉妹を連れて行くことをポイントに企画を実施した。その結果、回を重ねるごとに「障害者」がリラックスしてくれたり、きょうだいのことがお互いに分かり合えたりして、会らしい活動がやれた実感が得られたという。だが、90年代後半以降、このような活動は見られなくなっている。
 第二に、「きょうだい自身の課題に取り組むこと」である。これは、「障害者」を持つきょうだいがお互いに励まし合い、悩みや不安、将来に対する夢などが大いに語り合える関係をつくり育てることを指す。会の結成当初から現在まで、定例会は継続的に実施され、一度も停止期間はない。しかし、90年代前半頃までは、議論の中心は一人一人の問題を考えるよりも、会員を増やす方法の検討に重きを置くこととなってしまった。その打開策として、京都でてこいランド1泊2日交流会が1999年から開催されるようになった。その結果、地元にきょうだい会の支部がない人の参加のしやすさ、大勢の人とゆっくり話し合える場づくりを実現できたという。また、同時期から、家族支援の必要性が認識され始めたことや、インターネットの普及により、若い世代が本部を通じて会を訪れるようになった。さらに、京阪神のきょうだい会の中で例会開催日程を調整して全体の実施回数を増やした上、独自のホームページ等を開設した。その結果、参加者が増加し、府県を超えての交流が進んだため、深く語り合える関係が作り合えてきたという。
 第三に、「社会への提言」である。これは、「障害者」と共に生きる社会の実現に向けて取り組むことを指す。1980年代前半から90年代後半まで、シンポジウムや学習会を実施し、障害者が地域で生きる社会を目指すための啓発活動に取り組んだ。その時の課題として、福祉の分野で活躍している人を講師に呼ぶ等、人を集めることについて考え過ぎ、肝心のきょうだいの抱えるテーマを提示することが弱かったという。きょうだいも障害当事者のことを真剣に考えている、というアピールに終わってしまう傾向にあり、きょうだいが本当に抱えている問題を伝えきれていなかった。

4. 考察

 京都きょうだい会では、その時代背景から、きょうだいも障害者運動の一翼を担うという点を強調しないと会が支持されないという思いに迫られていた。そのため、当初は「『障害者』本人への取り組み」を一番の目的としていた。しかし、きょうだいは「活動家集団」ではなく、「普通の市民・社会人」であり、第二の目的であった「きょうだい自身への取り組み」を当初からもっと前面に押し出すべきだったとしている。詳細については、当日に報告する。

文献(一部)

高瀬夏代・井上雅彦,2007,「障害児・者のきょうだい研究の動向と今後の研究の方向性」,『発達心理臨床研究』13巻,兵庫教育大学発達心理臨床研究センター
松本理沙,2012,「京都『障害者』を持つ兄弟姉妹の会(京都きょうだい会)」,『知ってる?知ろうよ!セルフヘルプグループ!!』,佛教大学(2012年7月22日講演資料)
吉川かおり,2001,「障害児者の『きょうだい』が持つ当事者性―セルフヘルプ・グループの意義」『東洋大学社会学部紀要』39巻3号,東洋大学社会学部



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