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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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松原聡 (まつばら さとる) 東洋大学経済学部

■報告題目

障害者差別解消法とデジタル教科書

■報告キーワード

障害者差別解消法 / デジタル教科書 / アクセシビリティ

■報告要旨

 障害者差別解消法が成立し、2016年4月の施行を待つ段階となっている。本報告では、小中学校の教科用図書のアクセシビリティについて、障害者差別解消法の成立を踏まえて論じていく。
 障害者差別解消法では、第7条で「行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。2.行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。」とされている。
 視覚等に障害のある児童、生徒が、紙の教科用図書を拡大や音声読み上げに対応させるという「社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」をした場合に、行政機関等は「社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない」こととなる。
 紙の教科用図書を、デジタル化して、拡大(リフロー)や、音声読み上げに対応させるためには、まずスキャンして、その上でOCRにかけてテキスト化し、さらにそれを校正するという作業が必要となる。OCRの精度がまだ技術的に十分なものになっていないため、人手による校正にそれなりの時間と費用をかける必要が生じる。さらに、そのテキスト化したデータを実際に利用するデジタル端末もまた必要となる。
 教科用図書は、国語、算数、理科、社会その他の科目があり、それらを複数の教科書会社が発行している。視覚等に障害のある児童、生徒からの、障害者差別解消法に基づく紙の教科書という「社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明」があった場合には、行政機関等は対応の実施が必要となる。
 本報告では、その際に必要な、費用等について、どのように対応すれば一番合理的なのか、についての検討を行う。
 個別の学校単位や自治体単位で対応することは、もっとも費用がかかるが、一方で全国一律でのすべての教科書のデジタル化や、対応端末の児童、生徒への貸与行う仕組みを作ることも、現在の制度からは容易ではない。
 報告者は、佐賀県武雄市の「ICT教育推進協議会委員長」として、武雄市の全児童、生徒へのデジタル教科書デバイスの配備などの答申をとりまとめた。それを受けて、氏は2014年4月からは市内全小学生に配備を終え、2015年4月からは全中学生に配備する予定である。
 ここでの実践例を通しながら、費用的に、そして時間的に合理的な、視覚等に障害のある児童、生徒へのアクセシブルな教科書、つまりデジタル教科書の配備についての総合的な政策案を提示する。



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障害学会第11回大会(2014年度)