障害学会HOME
障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨
ここをクリックするとひらがなのルビがつきます。
ルビは自動的にふられるため、人名等に一部変換ミスが生じることがあります。あらかじめご了承ください。
山下 幸子 (やました さちこ) 淑徳大学
■報告題目
障害者と介助者との関係を規定する要素について―「事業」と「運動」との間
■報告キーワード
自立生活運動 / 介助派遣 / 介護資格制度
■報告要旨
1 研究目的
2003年度以降、障害福祉サービス提供のあり方は根本的に変わった。例示すれば、法に基づく訪問系介護サービスを提供する場合の、サービス類型に応じた提供者への資格取得・研修修了必須化。他、民間企業・NPO法人を含め都道府県からの指定を受けた介護派遣事業所がサービスを提供するようになったこと。これにより、介助者の多くは事業所に所属する介助従事者として賃金を得ることとなる。
これらは、現在の“介助という仕事”を表す要素である。ではそれらは障害者との関係や障害者自立生活運動の進展にいかなる影響を与えてきたのか。この問いを本研究では、関連する文献の精読(先行研究に【渡邉 2011】)や関係諸団体からの情報提供を通して考える。
2 介護資格制度に抗してきた運動
現在の、高齢者介護を主な対象と据えた介護資格の体系化と高度化の動向とは逆に、自立生活運動では資格が介助者の従事要件となることに抗してきた。運動の理念からすると、介助の質の評価はそれを実際に受ける障害者本人により行われるのが基本であり、障害者の介助では個別性が重視され、その人に合った介助を提供できる養成が重視されたためであった(山下 2014)。
03年度から全ての訪問系介助者に何らかの従事要件が課されることが明確になってきた00年頃から、資格要件への異議が運動において高まる。それは自立生活理念に沿った反論と共に、これまで無資格で介助を行ってきた者たちが03年度以降一斉に介助に従事できなくなるからだった。
対応として、運動は継続した国への働きかけの結果、研修時間20時間の日常生活支援(現・重度訪問介護養成研修)を独自に創設することができた。それは全身性障害者介護人派遣事業の流れをくむ、障害福祉サービス独自の研修だ。現在の介護保険制度での最短の研修は介護職員初任者研修の130時間である。それよりもずっと短い研修時間のため、間口を広く介助者を募集できた。
3 介助の事業化・介助の仕事化と介護資格制度との距離のとり方
ただしここで同時に考えねばならないことは、自立生活運動は単に資格制度を断固として否定してきたわけでは必ずしもないということだ。東京や大阪等自立生活運動の先進地域では、80年代中頃から介助の必要な障害者の生活基盤を確立しようとする動きとともに、ボランティア頼みの体制から脱却し介助を社会的に仕事として位置づけていくという方向があった。
個と個の関係性を重視する見方からすれば、介護資格制度という外部から一律にその関係を規定する要素には否定的評価が下される。一方、障害者の介護保障の基盤を作り、介助を「仕事」として成り立たせるために、介助を事業化していくことの必要性が主張され、それに付随し資格要件は一定のむべきだという主張が既に90年代中頃から存在していた(深田 2013)。この点は一枚岩では語れない複雑さをもっている。
4 事業所の介在による障害者と介助者の位置どり
03年度当初、介助者の資格要件については混乱が見られたが、日常生活支援・重度訪問介護の場合は各事業所で要件を備えた講師を確保し、必要に応じてその都度研修を行える体制が、まもなく整備されていくようになる(なお地域格差はあるし、重度訪問介護の対象外だった知的/精神障害者の居宅介護ではそう簡単ではなく、別様の課題がある)。
事業所が介助者を募集し、養成研修を実施し、障害者に派遣していくという流れとともに、もはや資格研修は介助者にとって仕事のための「入口」であることが自明となって久しい。そのことの是非及び意味は、これまでの運動の軌跡を下敷きに検討していくことが必要だ。
加えて、介助者のみならず事業所を通して介護サービスを利用する障害者にとっても、そうしたことが自明となるという点を考える。
事業所化は障害当事者運動に積極的になれる人もそうではない人も、分け隔てることなくサービスが提供される仕組であり、そこには重要な意味がある。しかし同時に、事業所が障害者と介護者との間に介在する現在の仕組は、利用者となる障害者にとっては、介助という、本来自身に深く関わる事柄でありながら、それをそういうものとして捉えることを難しくもする。もちろん全ての利用者が「活動家」である必要はない。ただ、障害者が事業所において「一利用者化」していく可能性があることをどう考えるか。介護派遣システムの安定(そこには介助者の安定も含まれる)とともに、自立支援活動推進との両輪が求められている。
【研究結果の詳細は当日会場にて報告する。】
参考文献
深田耕一郎(2013)『福祉と贈与―全身性障害者・新田勲と介護者たち』生活書院
山下幸子(2014)「介護を仕事とするための要件について-介護資格制度を考える」『支援』第4号、105-138。
渡邉琢(2011)『介助者たちは、どう生きていくのか―障害者の地域自立生活と介助という営み』生活書院
謝辞 本研究はJSPS科研費25780348の助成を受けている。
>TOP
障害学会第11回大会(2014年度)
|