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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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宮崎 康支 (みやざき やすし) 関西学院大学大学院総合政策研究科

■報告題目

新聞記事データベースにみる発達障害とその周辺概念の変遷

■報告キーワード

発達障害 / 新聞 / 概念定義

■報告要旨

 2004年に国会にて可決された『発達障害者支援法』(平成十六年十二月十日法律第百六十七号)は発達障害を、次のように定義している。

 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。(第2条1項)

 しかし、医学概念としての『発達障害』はこれ以前から存在していた。1960年代の米国ケネディ政権の精神遅滞委員会に提示された “developmental disabilities”の訳語 (竹下, 1999; 原, 2004) として紹介されたとみられる。また、市川 (2008) は発達障害を、18歳までに発生する身体ないし精神の発達の遅れであると説明している。
 ちなみに、『発達障害』のキーワードによりいわゆる全国紙5紙 (読売、朝日、毎日、日経、産経) の新聞記事データベースにおける検索を実施したところ [註]、最も古い該当記事は読売新聞東京夕刊1959年11月19日発行分に掲載された「バカにつける薬あり 近く学界に実験成績発表 3人に1人は効果」であった。この中で発達障害は『精神発達障害』と表記されている。
 特別支援教育の施行などにより、『発達障害』は多くの人々が知る概念となったが、単に言葉が『独り歩き』することは危険を伴う。異なる言説を念頭に入れた当事者と専門職がコミュニケーションをしたとき、それに基づく『支援』の質しだいで不幸になるのは当事者ではないだろうか。養護教諭に対して発達障害の言説に関する調査を行った五十嵐 (2009) は次のように述べている。

 […] 個々の発達障害児への配慮は養護教諭の当事者性やその子の個性が故に一定のものとは言いがたく、支援の内容や方法を確定する作業が必要である。そのような状態の発達障害児へ、どのような場面で、どのように対応するのか、文脈と共に検討する作業であり、単に『配慮する』ではなく『言説』の形で追求することが必要であると考える。(五十嵐, 2009: 25)

 つまり、障害の当事者と研究者は、障害者のwell-beingを追求するにあたっては、障害をめぐる言説にかかる議論を実践の文脈の中で続けなければならないのである。
 本報告においては医療・福祉における社会的な言説の形成に大きな影響を及ぼす新聞記事のデータベース検索を通じて、『発達障害』とその周辺概念の経年的変遷を分析する。また、社会言語学や語用論などを基盤として発展している批判的ディスコース分析 (Critical Discourse Analysis: CDA) (e.g. Fairclough, 1995) の手法を用いて、概念変遷の政治的要因の分析を試みる。CDAは近年においては数こそ少ないものの (Grue, 2011)、障害分野の分析にも用いられている。障害は政治的な問題であることから、言語と権力の関係を読み解くCDAのアプローチは、障害にかかる問題を批判的に分析する手法として有効であると考えられる。
 収集されたデータの詳細ならびに考察は、大会当日に報告する。

【註】
2014年7月27日に検索を実施した。なお、各紙の記事収録期間には相違があることに注意されたい。

【引用文献】
【邦文】
五十嵐和子. (2008). 「広汎性発達障害・注意欠陥多動性障害 (ADHD) 児童に対する養護教諭の対応--言説を用いた郵送調査から」,『日本教育保健学会年報』, 16, 25-35.
市川宏伸. (2008). 『自閉症を学びなおす』. 東京: 東京自閉症センター.
竹下研三. (1999). 「障害の概念と歴史」. 熊谷公明・栗田広 (編), 『発達障害の基礎』, 2-10.
『発達障害者支援法』(平成十六年十二月十日法律第百六十七号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16HO167.html (2014年7月18日)
原仁. (2004). 「発達障害の概念」, 『JL NEWS』, 55.
http://www.gtid.net/jp/news/20060220142140/ (2011年5月26日)

【英文】
Fairclough, N. (1995). Critical discourse analysis: the critical study of language. Reading, MA: Addison–Wesley.
Grue, J. (2011). Discouse analysis and disability: some topics and issues. Discourse & Society, 22(5), 532-546.



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