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スポーツ障害の障害学

報告者: 杉野昭博(関西学院大学)

障害学会第5回大会 於:熊本学園大学


◆要旨

 2007年度より関西大学社会学部杉野ゼミで継続しておこなっている「スポーツ障害」の経験についてのインタビュー調査、および、それに基づく研究討論の中間報告をおこなう。2007年度前半は、「スポーツのケガによる悩み」を対象とした先行研究やインターネット情報を調べるとともに、トレーナーやコーチなどスタッフ関係者から「ケガに悩んだ選手」についての話を聞いた。07年度後半は、パイロット・インタビュー調査を10名の「ケガの経験者」を対象におこない、そのうち5名の経験者について本調査をおこなうことにした。本調査は、半構造化インタビューによる面接調査を、1人の調査協力者につき2時間程度おこなった。調査者は学生3~4名である。インタビュー内容をテープ起こしした上で、野球とアメフトという2種目と女性の経験という3つのカテゴリーごとにまとめた。さらに、これらの「スポーツでのケガの経験」と「身体障害の経験」との比較を文献によっておこなった。

 これらの研究データを検討協議するなかで、以下の5つが重要な研究課題として浮かび上がった。

1.スポーツのケガによる苦悩は身体障害の経験による苦悩よりも深刻ではないという仮説は支持されない。

2.スポーツでのケガの悩みについて話すことは心理的な負担を軽減する上で重要だと思われるが、話すこと自体がきわめて困難である。

3.「忍耐・努力・勝利」というスポーツをとりまく支配的価値観が、ケガの悩みについて話すことを困難にしている。

4.「忍耐・努力・勝利」といった価値観を中和する価値観として、「べてるの家」の実践における「右下がりの生き方」を選手たちに提示したところ顕著な反応が見られた。

5.同じように「忍耐・努力・勝利」という価値観によるスポーツ指導においても、ケガした選手が挫折感を強く抱く指導事例と、そうではない指導事例があった。

 今回の報告では、これらの論点の一部を紙芝居化したものを提示し、学会参加者による感想や意見を募り、今後の研究に役立てたい。これらの紙芝居は、スポーツのケガで苦しんでいる人たちへのカウンセリング効果を期待して作成したものだが、スポーツによるケガに心理的に対処するための心の準備という意味で「予防効果」も期待している。また、幅広く「障害理解教育」の啓発用具としてもその可能性を今後発展させていきたいと考えている。

 今回展示する紙芝居は下記の6作品を予定している。

1)「自分いじめ」はやめよう:「べてるの家」の紹介

2)素直に気持ちを伝える勇気:体育会内部で自らの「弱さ」を告白することの困難

3)Ⅹさんの話:ある弱視の方の人生の話

4)Y君とZ君:Xさんの話に共感して思わず涙した弱視のY君に対する体育会のZ君の反応

5)ボクと監督さん~A君の場合:ケガ人の居場所がなかった野球チームの話

6)ボクと監督さん~B君の場合:ケガ人の居場所があった野球チームの話

以上の6つの紙芝居は、それぞれ独立しているが、1)と2)、3)と4)、5)と6)が連作にもなっている。展示スペースの関係で一度に6作品を展示できない場合は、時間帯によって展示作品を変える予定である。


UP:20081004


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