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「スーダン視覚障害学生支援の現状と課題」スーダンに今必要な技術支援と当事者による支援
斉藤龍一郎(特定非営利活動法人 アフリカ日本協議会)
植村要(立命館大学大学院先端総合学術研究科)
韓星民(立命館大学大学院先端総合学術研究科)

障害学会第5回大会 於:熊本学園大学


◆要旨

 昨年3月、スーダンから日本へ留学している視覚障害者が中心となって「スーダン障害者教育支援の会(CAPEDS)」を立ち上げた。CAPEDSが作成・発行したパンフレット、報告書、CAPEDSメンバーであるスーダン人視覚障害者と同年代の日本人視覚障害者による座談会(昨年8月に東京で、今年6月に京都で開催)およびCAPEDSメンバーに対して行った聞き取りをもとに、スーダンで現在求められている視覚障害者に対する技術支援について概観するとともに、当事者による支援の意義について考察する。

1. スーダンにおける視覚障害者支援の現状
 CAPEDSによると、スーダンにおける視覚障害者支援の現状は以下の通りである。
・全国で1校しかない盲学校は初等教育課程で終了となる。
・ハルツーム州教育省は、視覚障害者を対象とした教育支援の中核校を設置し点字教育のできる教員を配置するという取り組みを行っている。
・幼児期から初等教育における視覚障害者教育についてわかっていることは上記のみ。
・中等教育、高等教育を受ける視覚障害者の数は増えているようである。
・中等教育、高等教育を受けている視覚障害者は、対面朗読もしくは録音テープによって書籍を読んでいる。
・スーダンの識字率は高いとは言えず、対面朗読や録音テープによる学習が困難な視覚障害者が多数いると思われる。

2. IT技術による視覚障害者支援の可能性
・日本では、近年、急速に発達したIT技術を利用した音声読み上げソフト、点訳ソフト、点字プリンター、点字ディスプレーなどの視覚障害者支援機器が、広く利用されるようになった。
・CAPEDSメンバーも、日本へ留学して、IT技術を利用することができるようになった。
・アラビア語圏でもPC利用は広がっており、アラビア語の音声読み上げソフトも開発されている。
・ハルツーム大学では、視覚障害者学生団体の要求に応じて障害者支援室と音声読み上げソフトがインストールされたPCが用意されたものの、障害学生がいつでも自由に利用できる状態ではない。
・障害者支援室の拡大、音声読み上げソフト・インストールPC数の増加、また、音声読み上げソフトインストールPC利用機会の増加は、現在在学中の視覚障害者にとって大きな支援になるだけでなく、視覚障害者支援のモデルとしての役割を果たしうる。
・音声読み上げソフト・インストールPC利用によって就労可能な卒業生もいると
考えられる。

3. ハルツーム大学における障害当事者の活動
1.の状況にも関わらず、約16000人の学生が在籍するハルツーム大学には、60人ほどの障害学生が在籍し、障害を持つ卒業生の会も存在する。当事者による取り組みが障害学生の勉学、活動場面に大きな影響を及ぼしていることがうかがわれる。CAPEDSの報告などによると以下の状況がある。
・ハルツーム大学に在籍する視覚障害者は、1990年代後半には60人を超えていた。
・2000年ごろ、ハルツーム大学在学の視覚障害者たち自身による学生団体が結成され、大学に障害学生支援を訴えた。
・その結果、障害学生支援ボランティア募集のための取り組みが始まり、障害者支援室と音声読み上げソフトをインストールしたPCが使用できるようになった。
・現在、ハルツーム大学障害学生卒業生の会が活動している。
・ハルツーム大学による障害学生の就職支援は行われておらず、障害学生の就職率は低い。
・今年8月、CAPEDSが大学にPCとスクリーンリーダーを寄贈した。このPCを利用するための支援室が作られ、発足式も行われた。

4. アフリカ障害者の10年と当事者による支援
・アフリカ連合(AU)は2000年~2009年を「アフリカ障害者の10年」に定めている。
・2004年から南アに「アフリカ障害者の10年」事務局が常設されている。
・アフリカ障害者の10年の取り組みは、まだアフリカ諸国の全てに及んでいない。
・境遇、経験に共通項の高いハルツーム大学在学者が留学先の日本で立ち上げた
CAPEDSの取り組みは、アフリカ障害者の10年にとっても貴重なモデルとなりえる。

5. 共同研究の可能性
・障害当事者が障害者支援の国際協力活動を行っているケースはあまり聞かないので、調査・研究を通して取り組みの意義・成果が広く紹介されることは大きな意義がある。
・新しい調査・研究の方法が見出される可能性がある。


UP:20081004


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