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職業的困難度からみた障害程度の見直しについて-その2-
~障害者の就業支援現場の声(2007年調査)を通して"職業上の障害判定"について考える~


障害者職業総合センター(適応環境研究)沖山 稚子

障害学会第5回大会 於:熊本学園大学


◆要旨

1.問題の所在
  我が国の障害者雇用施策における障害程度は、障害者福祉施策における障害程度の基準を準用しているのが現状である。例えば、身体障害者については、身体障害者福祉法の「身体障害者障害程度等級表」により判断しているが、同じ障害程度に区分されている場合でも、障害の部位や種類、重複状況により実際の職業生活における制限や困難の程度は異なってくる。
 昨年8月15日に福祉労働者らでつくる全国福祉保育労働組合が「日本政府は障害者の職業リハビリテーションおよび雇用に関する国際労働機関(ILO )159号条約を批准しているが、日本の障害者雇用政策はその条約に違反している」としてILOに是正勧告の申し立て書を提出したことは、新聞報道により広く知られるところである。申立書から今回のテーマに関連する部分を引用すると次のとおりである。「ILO条約・勧告では障害者の定義は個々の労働能力に基づいている。しかし日本の障害者雇用促進法上では、障害者は労働能力によって認定されていない。雇用率制度に使われている統計には、障害者の実際の労働能力は正しく反映されていない。1996年に障害者雇用施策の状況を内部監査した総務庁監察局の勧告を日本政府が受け入れ実行していれば解決できるはずだった。」
 こうして身体手帳等の等級と職業上の困難度の乖離や、就業支援上の不都合が多くの場面で、長期に亘り指摘されてきたにもかかわらず、我が国として「職業上の障害判定」が実現できずにいるのは、就職困難に影響する要因が年齢、性別、障害、適性・能力、雇用環境や時代、さらには就職支援力や事業所がしてくれる配慮など複雑で多岐に亘っているからだと思われる。
 昨年の障害学会第4回大会では「先行研究等を通して"職業上の障害判定"が可能かどうか」について報告した。今回は、昨年実施した調査結果をもとに、障害者の就業支援現場の「広域障害者職業センター」と「地域障害者職業センター」では職業的困難についてどう考えているのか概観し、この問題についての提案をしたい。

2.就業支援現場に対する調査の概観
(1) 調査時期
平成19年6月27日~7月13日
(2) 調査対象
 全国の障害者職業センター55カ所
(3) 調査項目(主要なもの)
 ◎職業的困難度の高い障害者(困難度が高い障害種類は何かなど)
 ◎各障害をめぐる近年の動向と就業支援制度等の効果等(身体障害者、知的障害者、精  神障害者、高次脳機能障害、 重複障害者、発達障害者、知的ボーダー層) 
 ◎雇用率上のトリプルカウント、ダブルカウントすることの必要性
(4) 調査方法
 郵送と電子メールによる質問紙調査(記述式)、郵送または電子メールで回収
(5) 回収状況
 回答者数は計71名で、有効回収率94.4%

3.調査結果から
 同一の組織(独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構)の現場に属する管理職への調査であるが、回答者の属性は、約20年以上の障害者職業カウンセラー経験者、職業安定行政経験者、職業訓練指導員経験者、その他と多様であり、それぞれの就労支援現場の特性や業務内容、職業経験等により、対応した障害種別に偏りがあることに加え、回答者が勤務する地域の地域差や意識の差があり、職業上の障害判定をめぐる回答内容は多岐に亘った。
 その中でも、多くの者が指摘するのは、「重複障害」のある者の職業的困難度は高いという点で、特に主たる障害として身体障害があって知的障害者や精神障害を重複している場合を挙げるものが最も多い。
 本人を取り巻く環境要因から職業的困難度をとらえる場合には、「現行の障害者認定基準には該当しないため各種援助制度が活用できない者」という回答に代表されるように、制度の活用可能性の有無を指摘するものが最も多い。例えば、「雇用率の対象とならない」、「社会的な援護措置がない」場合には、職業的困難度を高めると考えている。
 一方で、知的障害者の雇用をめぐる変化については、総じて「向上した」、「ジョブコーチ事業が浸透している」との肯定的な回答である。
雇用率のダブルカウント(またはトリプルカウントの新設)の必要性については、全体的に見て、トリプルカウント、ダブルカウントについて慎重又は反対の回答と賛成の回答は3:2と反対の方がやや多くなっているが、賛成とする回答では、「全盲」、「重度脳性まひ」、「重複障害」はトリプルにしてもよいとしている。

4.提案
 そもそも就職という活動は事業所と求職者の相互行為なので、障害者側だけをどれほど緻密に評価したとしても「職業上の障害判定」は不完全なものでしかないことは容易に分かる。どこから通うか?どこで就職するか?に始まり就職の相手となる事業所についての評価も不可欠である。どういう事業所で何の作業をするか?周辺の配慮はどうか?などという具合に、障害者側と事業所側の要素、そしてその両者の関係性まで想定すべき変数はとても多い。
 だから「職業上の障害判定」をめざして完璧なものを作ろうと、さらに年数や努力を費やすのは得策ではないと考える。むしろ現状の不備を少しでも改善できることをめざした実行可能な判定方法の検討こそが待たれている。1996年に総務庁が労働省に対して行った勧告は、そういう意味で現実的な判定方法を示唆したといえる。内容は「重度障害者とされる者の範囲については、現行の定義による重度障害者に加え、地域センターが個々の職業能力に応じて『重度』の認定を行い、これらの重度障害者を雇用上の支援の対象とするものとすることにより、重度障害者に対する支援の充実を図ること。さらに、前記の実績もふまえ、身体障害者の雇用対策に用いる職業安定機関独自の重度認定基準を検討すること。」というものである。(注1)
 職業的困難度を議論する時の新たな視点としては、「年齢」に注目したい。「年齢」は分かりやすい基準であり、障害者の中でも「高齢障害者」の採用が躊躇されている事実があるからだ。東京都立労働研究所の調査結果が、そのことを証明している。東京都心身障害者雇用促進協会の会員事業所に実施した「中高年障害者の雇用に関する調査:1990年」(823票:回収率39.2%)で、「障害者を求人・採用する場合、40歳くらいまで」とする回答が67%であるという厳しい実態が明らかになった。労働政策研究・研修機構が行った一般求職者に対する調査(「ハローワーク来所者の求職行動に関する調査」:2007年)でも、求職活動における障害として「年齢制限が厳しい」とする回答が多い(46.9%)。この報告書では「求人の際に年齢制限を設けることは法律で規制されているが、採用選考の現場では年齢制限がまかり通っているようだ。」と指摘する。
「就職したい」と希望し、就職活動を繰り返しながらも就職できずにいる障害者が1人でも多く就職できるために、できることからとりかかること、関係者間で異論の出にくい項目(例えば「年齢」)を職業的困難度の新たな視点として順次加えることなどを提案する。(注2)

(注1)総務庁行政監察局:障害者の雇用・就業に関する行政監察結果報告書(1996)p118
(注2)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者雇用開発助成金)では、45歳以上の中高年齢障害者を採用した場合に、助成内容が手厚い(助成期間が長い、助成額高い)助成金が整備されていることが目を惹く。


UP:20081004
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