障害学会HOME

障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


ここをクリックするとひらがなのルビがつきます。
ルビは自動的にふられるため、人名等に一部変換ミスが生じることがあります。あらかじめご了承ください。


金 在根 (キム ジェグン) 早稲田大学 人間科学部

■報告題目

高齢障害者・障害高齢者の福祉ニーズからみる支援の在り方に関する研究

■報告キーワード

高齢障害者、障害高齢者、障害者経験

■報告要旨

1.研究の背景

 社会福祉制度の中で高齢者と障害者は基本的に別々の枠組みに区分されているが、高齢と障害の両方の属性を抱えている人は少なくない。先行研究のレビューから、日本における障害高齢者や高齢障害者の用語は主に1980年代から使われているが、単純に既存の障害者が65歳を過ぎると高齢障害者と呼び、65歳を過ぎてから障害を負うと障害高齢者と呼んで両者を区別することが分かった。そして、1980年代や90年代よりは介護保険や支援費制度がスタートした2000年代以降の研究の方が対象別に問題点を限定して用いていることが分かった。例えば、障害高齢者の用語を用いる研究では、リハビリテーションや日常生活自立度など、身体的機能と関係した内容が多く見られ、高齢障害者の用語を用いる研究では、障害者の介護保障や介護保険との関係の内容がほとんどを占めている。すなわち、障害高齢者を対象にした研究は、加齢に伴う身体や認知機能の低下によって発生する生活問題やその機能回復に注目し、高齢障害者を対象にした研究は、障害者が65歳以降に利用する制度の枠組みが障害者福祉制度から介護保険制度に代わったこと、そして制度移行に伴う介護保障量の低下の問題に注目していることがほとんどである。しかし、どちらもそれほど研究がなされず、行政も(最近注目し始めているものの)今までこの問題に対して本腰になることはなかった(2015年3月、厚生労働省内に、「高齢の障害者に対する支援の在り方に関する論点整理のための作業チーム」が作られた)。

2.問題意識

 身体障害者の約7割が65歳以上の高齢者(『障害者白書』内閣府、27年度版)であることからも障害者福祉をめぐる今日的課題に高齢は看過できない要素であると考える。今までの主な研究は、高齢障害者は介護保障問題に焦点を当て、障害高齢者は身体機能の問題に焦点を当てており高齢障害者と障害高齢者の両者には異なるニーズがあることを明示しているが、両者に高齢と障害という共通の要素があることはそれほど論じられていない。特に、日本では両者を一緒に取り上げることや比較する研究はほとんどない中、本研究では特に「障害者経験」に注目したい。
 西欧の諸研究によると、高齢障害者の生活に影響を与える要因は、生理学的・生化学的次元のみならず、心理・社会的要因も重要であるとされる(イ・インジョン、2010)。それは、障害高齢者や高齢障害者の問題を考えるうえでも身体機能の変化のみならず、心理的変化にも注目する必要があることを示唆している。高齢障害者は今までの障害の問題から新たに高齢の問題が付与されることによって心理的側面と身体的側面において新たな変化や課題が生じるのではないか。また、障害はインペアメントやディスアビリティといった多面的意味をもつ概念であり、障害高齢者の場合も新たに障害が付与されることによって機能問題のみならず、新たな課題が生じるのではないかと考える。つまり、介護保障の充実のための制度改善や機能低下の課題のような表面的問題のみ注目されると、障害高齢者や高齢障害者の多様な福祉ニーズは潜在化されてしまうのではないかと考える。
 次に、潜在化した福祉ニーズを明らかにするためには両者の問題の根底にある障害の視点(障害者経験)が有効であると考える。高齢に伴ってインペアメントが生じる可能性は増えると考えるが、それは障害者が闘ってきたディスアビリティとは異なるものであり、「障害者経験」のなかった高齢者にディスアビリティの意識は低いと考える。したがって、高齢障害者と障害高齢者は、共通の生活課題はあるものの、それに対する価値観は異なると考える。

3.研究の目的

 高齢障害者と障害高齢者の障害と高齢を合わせ持つという共通点と、「障害者経験」の有無による相違点に注目し、高齢障害者の高齢(者として)の側面、障害高齢者の障害(者として)の側面にアプローチしつつ、両者のもつ共通点と相違点を通して、高齢障害者と障害高齢者のもつ潜在的福祉ニーズを明らかにする。
 具体的には、先行研究から整理した分析枠組みである「障害への向き合い方」「生活状況」「福祉ニーズ」に基づいて高齢障害者と障害高齢者を比較し、その結果を明らかにする。その結果から、高齢障害者と障害高齢者の自己認識、生活課題を明らかにすることで両者の潜在的福祉ニーズを顕在化する。
 今後研究(調査)を行う際には、日本社会福祉学会「研究倫理方針」に従って行う予定である。

参考文献
・内閣府(2015)『平成27年度 障害者白書』
・イ・インジョン(이인정)(2010)「노년기 장애에 영향을 미치는 요인들에관한 연구(A Study on the Factors Affecting Late-life Disability)」『보건사회연구』30(2)、pp.55-84



>TOP


障害学会第13回大会(2016年度)