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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


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大上 梨奈 (おおうえ りな)  奈良女子大学大学院 人間文化研究科 社会生活環境学専攻 博士後期課程1年

■報告題目

発達障害の子をもつ母親の障害認識の変容―母親の語りに着目して

■報告キーワード

発達障害/障害認識/語り

■報告要旨

1.研究目的

 近年、発達障害への関心の高まりから、人々の発達障害への理解やまなざしが広がっている。そして、日本では、発達障害者支援法の成立、特別支援教育の実施など、発達障害児・者への政策面での支援体制が整備され、発達障害児に対し早期発見・早期療育が進んでいる。その一方で、発達障害はスペクトラム概念で捉えられるように、定義や診断自体が曖昧であり、障害と定型発達の間が不明確である。また、発達障害児の障害特性には個人差があり成長過程で変化する。そのため、親自身も子どもの障害を理解しにくい。
 発達障害児をめぐるこのような状況において、母親は子どものどのような行動を不適応な行動とみなし発達障害と定義づけしているのだろうか。本研究は発達障害の子どもをもつ母親の語りに着目し、発達障害の子をもつ母親の障害認識の変容をみていく明らかにしていく。

2.研究方法

 本研究で扱うデータは、母親への個別インタビューと発達障害児の親の会への参与観察から得られたものである。インタビューは2名の母親に対して行った。インタビューは、半構造化された形で、障害への気付きから受診までの経緯、日常生活での困難や対処法を中心的なトピックとしながら自由に語ってもらった。親の会では、親が子どもの障害への気付きから現在に至るまでの経緯と現在の悩みについて順番に話していく様子を観察した。なお、調査期間は2014年1月から6月までである。
 個別インタビューデータは、トランスクリプトに起こしたインタビュー記録を何度も繰り返し読み、「子どもの障害の気づきから診断への流れ」、「診断告知」、「困難への対処法」、「障害に対する考え」という大きなテーマを制定し、母親の語りをまとめた。
 本研究は倫理的配慮として「日本社会学倫理綱領にもとづく研究指針」に従っている。調査を行う際、対象者に事前に調査の目的・概要について口頭と文書で説明し、調査協力の承諾を得た。インタビューは自由回答であること、プライバシーを厳守すること、インタビュー内容を研究以外で使用しないことを伝えた上で行った。

3.結果

 インタビュー調査と参与調査から、以下のことが明らかになった。
 母親は発達障害の知識を与えられたことで、子どもの不適応な行動を障害の特性と捉えられるようになる。そして、発達障害と子どもの実態との結びつきが母親の障害認識を決定付けるうえで重要であることが見いだせた。このとき、母親は受診経験や専門家からの説明だけから子どもの診断名と障害を直結させていくわけではない。母親は生活上の困難に対し、その場面に応じた資源(親の会、医療専門家、教員)や過去の出来事を利用しながら、障害認識を変容させている。
 さらに母親は子どもの障害を確信した後も、子どもの不適応な行動に対し再考を続け障害認識を変容させている。子どもの行動を発達障害の特性に直結させる親もいれば、発達障害の特性と個性との間で揺れる親もみられた。この母親の揺れは、発達障害自体の曖昧さや、発達障害と子どもの実態の不一致から抱く揺れであるだけでなく、親だからこそ抱く揺れではないかと考える。
 母親たちの語りから、子どもの障害を受容する/しないでは捉えきれない、母親の障害の意味づけや障害の乗り越え方を見出すことができた。



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障害学会第13回大会(2016年度)