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障害学会第13回大会(2016年度)報告要旨


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朝日 まどか (あさひ まどか) 北海道医療大学

■報告題目

訪問作業療法の効果をめぐる言説―ミシェル・フーコーの逸脱と規格化を手掛かりにして

■報告キーワード

作業療法、逸脱、規格化

■報告要旨

はじめに

 本研究では、ミシェル・フーコー(以下、フーコー)の<逸脱>と<規格化>を手掛かりとして、作業療法(以下、OT)における逸脱や常態とは何か、またOTが逸脱と常態を分類する試験について、さらに逸脱を規格化する制裁について、さらにこれらに内在する権力について分析する。今回はOTのなかでも、対象者の生活により密着した支援を行う訪問OTを対象に分析を行う。

対象と方法

 訪問OTの言説が反映されていると思われる学術誌5つの中から、訪問OTが対象者に求める効果について触れている論文20本を対象とした。分析方法は、批判的態度で言説を読み取る批判的言説分析(CDA:critical discourse analysis)を用いた。本研究は公刊された文献の考証を通した理論研究であるため、人権の保護、或いは法令遵守への対応をめぐる事項には該当しない。また、文献の引用・参考については日本社会福祉学会の研究倫理方針を遵守する。

結果と考察

1.OTにおける「逸脱」と「常態」

 フーコーは、規律・訓練上の刑罰の対象となるものに、規則への違反や規則に妥当しない事柄、規則を離れる事柄として逸脱をあげ、不適合なものという明確ではない領域が処罰可能なものとされていると述べている(フーコー2015:182)。OTでの<逸脱>とは、「意欲が低く消極的で、物事に挑戦せず諦める姿勢であり、臥床がちで活動性が乏しく、自立した生活が送れず、また他者との交流も少ない」状態である。作業療法士(以下、OTR)はこれらの<逸脱>が矯正された「常態」を目標にすると同時に、その「常態」が将来も継続すること、すなわち習慣化することまでを目標としている。

2.OTにおける「試験」

 フーコーは、「試験」という規格化の視線により、資格付与と分類と処罰とを可能にすることができ、またそれは高度に儀式化されると述べている(フーコー2015:188)。
 OTでは、情報収集や傾聴(面接)、観察、検査、測定が「試験」にあたると考えられるが、検査や測定のように儀式的に行われるものもあれば、傾聴のように自然な流れのなかで対象者を尊重する立場をみせながらも<規格化>の視線を注ぐ方法もとられている。

3.OTにおける「規格化を行う制裁」

 フーコーは、処罰の技法として、比較、差異化、階層秩序化、同質化、排除という5つの操作が用いられ規格化されると述べている(フーコー2015:186)。
 OTでは、まず対象者を健康という規則原理と関連させ、常態と比較し差異化する。他者との比較における階層秩序化は、在宅サービスである訪問OTでは、病院・施設と異なり困難であるが、病前と病後という時間軸のなかで自己を比較させ階層秩序化させることは可能である。また<逸脱>者には、常態へと近づくよう対象者の「意味のある作業」をとり入れつつ、相手を操作する際に用いられる「恩恵」(フーコー2015:184)、賞賛の言葉をかけながら対象者の意欲を高め同質化をはかる。同質化に至らない者は、フーコーは規格外のものとして、外的な境界を定める限度を描き出すとある(フーコー2015:186)が、今回の分析では規格外となる前に<規格化>へと導いていた。

4.OTにおける「権力」

 最後に<規格化>をおこなう制裁のなかでの「権力」について述べる。フーコーは権力の仕組みとは、それを身体の内部に侵入させ、行動の表面下にしのび込ませ、それを分類と理解可能性の原理とし、無秩序の存在理由であり自然的秩序であるものとして成立させると述べ(フーコー1999:56)、権力がある秩序を既に存在しているかのように装わせることを示唆している。また、目標と目的なしに行使される権力はなく、それは、権力が個人である主体=主観の選択あるいは決定に由来することを意味しないと述べている(フーコー1999:121)。

 このように権力とは何らかの意図がありながらも強制的ではなく自然で、また非-主観的である。OTにおける権力も対象者の「意味のある作業」を聞き、その作業ができないことを対象者自身が問題と捉え、改善していくよう自動化を目指した関わりをもつため、強制的な様式ではない。しかし、さりげなく関わりつつも、OTRは常態を意図し、対象者へ「指導」「介入」「働きかけ」を行っている。また、訪問OTでの関わりには時間的・環境的制約があるため、介護者家族や他職種と連携し、OTRが不在の際も対象者を管理し<規格化>を目指す。
 またOTは職能団体としての社会的承認を希求しており、承認を得るために対象者を尊重するとしながらもOTの効果を示そうとするため、フーコーが述べる「生-権力」〔人間の生に中心をおいた権力〕(フーコー1999:177)をより行使する恐れがある。
 当日の報告では、OTの対象者の捉え方や支援について例を示し、逸脱や規格化、権力との関係について述べる。

文献
ミシェル・フーコー、田村俶訳(2015)『監獄の誕生―監視と処罰』新潮社.
ミシェル・フーコー、渡辺守章訳(1999)『性の歴史Ⅰ 知への意志』新潮社.



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