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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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植戸 貴子 (うえと たかこ) 神戸女子大学健康福祉学部

■報告題目

知的障害児・者の親によるケアから社会的ケアへの移行──親へのアンケート調査から

■報告キーワード

知的障害 / 社会的ケア / アンケート調査

■報告要旨

I. 研究の背景・目的

 知的障害者の地域生活移行が進む一方、知的障害者のケアを担う母親の高齢化・病気等により本人のQOLが低下したり、母親が倒れて本人が入所施設へ移行したりというケースが数多く報告されている。ケアに行き詰まった親による子どもの殺害や心中事件も起きており、知的障害者の地域生活継続のための支援が喫緊の課題である。
 このような現状の背景には「親によるケアの抱え込み」や「母子密着」があると指摘されている(西村 2009、植戸 2014)。そして、知的障害者の「地域生活継続」のためには、「親によるケアから社会的ケアへの移行に向けた支援」が必要となるが、これまでの知的障害者福祉分野の実践研究には、「地域生活継続支援」の視点が十分ではない。そこで本研究では、「親によるケアから社会的ケアへの移行」に向けた相談支援に資するため、社会的ケアへの移行の阻害要因や促進要因を明らかにしていく。

II. 調査の概要

(1) 調査方法
 2009~2012年度にかけて、相談支援事業所や通所施設の相談支援従事者等への聞き取り調査を行い、知的障害者と家族に対する相談支援の現状や課題を明らかにした。そして、知的障害者をケアしてきた母親の置かれている状況や思いを理解するため、親へのアンケート調査を実施した。
 2014年2月、A市の知的障害者の親の会から全会員に、依頼文・質問票・返信用封筒を郵送してもらい、回答は調査者に返送してもらった。質問項目は、本人に関する質問(基本属性・生活状況・自立度・行動特性等)、親に関する質問(基本属性・ケアに関する意識・社会参加状況・ソーシャルサポート・子への思いや関わり・専門職との関係等)、サービス利用状況や経済状況に関する質問である。
 倫理的配慮として、事前に親の会の役員に質問票を示して調査の目的・概要について口頭と文書で説明し、調査協力の承諾を得た。会員への協力依頼文では、回答は自由意思によること、無記名であること、個人が特定されないよう統計的に処理すること、結果は学会等で発表することを記した。また、「神戸女子大学ヒト研究倫理委員会」の承認を得た。

(2) 調査結果
 送付した977通の質問票に対して451票の回答があり(回収率46.2%)、無効票・白票を除く449票を有効票とみなした。本人の属性としては、平均年齢は38.1歳(16~72歳)、男性が66.8%に対して女性が32.1%、療育手帳は重度が17.1%、中度が26.5%、軽度が17.1%であった。84.4%の人が親と同居し、日中活動の場は通所事業所が66.4%であった。回答者の属性としては、母親が79.3%、平均年齢は65.2歳(39~90歳)でとなっていた。

(3) 結果の分析と考察
 「社会的ケアへの移行度」を測るため、「母子が離れる時間」「サービスの積極的利用」「ケアを他者に委ねる意向」「子の自立に向けた関わり」を従属変数に設定し、それらに関連すると考えられる要因として、「母親の要因」「子の要因」「父子の関わりの要因」「経済的状況」を独立変数に設定し、相関分析及び一元配置分散分析を行った。「社会的ケアへの移行」に関連する要因について、仮説どおりの結果が得られた主なものは以下のとおりである。
①「独立規範意識」の強い母親は「ケアを委ねようという意向」が強く「子の自立に向けた関わり」が多い。
②就労や地域活動」に多くの時間を使う母親は「ケアを委ねようという意向」が強く「子の自立に向けた関わり」が多い。
③「子の自立度」の高い母親は「母子が離れる時間」が多く「ケアを委ねようという意向」が強く「子の自立に向けた関わり」が多い。
④「子の年齢」の高い母親は「ケアを委ねようという意向」が強い。
⑤「経済的なゆとり」の大きい母親は「母子が離れる時間」が多い。
 一方、仮説に反して、「母親役割意識」の強い母親は「ケアを委ねようという意向」が強く「子の自立に向けた関わり」が多い、という結果が得られた。
 先行研究や相談支援従事者への聞き取りでは「母子密着」が指摘されていたが、今回の分析からは、母親の価値観、子どもの属性、社会との関わり、経済的状況等、多様な要因が絡み合って「ケアの抱え込み」に至っている可能性が考えられる。

III. まとめ

 現時点での分析では、社会的ケアへの移行に関連する要因の一部が見えてきた。今後は、仮説とは異なる結果が出たものも含めて、さらなる分析を進めていきたい。

参考文献

西村愛(2009)「親役割を降りる支援の必要性を考える:『親亡き後』問題から一歩踏み出すために」『青森保健大学雑誌』10(2), 155-164
植戸貴子(2014)「知的障害者の地域生活継続のための先駆的相談支援実践:障害者相談支援事業所に対する聞き取り調査から」『神戸女子大学健康福祉学部紀要』6, 15-28



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