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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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盛 敏 (セイ ビン) 神戸大学大学院人間発達環境学研究科

■報告題目

文化的視点による自閉症概念の再検討──自閉症児の行動に対する日・中の文化的差異

■報告キーワード

自閉症文化 / 差異 / 異文化

■報告要旨

研究目的

 自閉症児の捉え方、自閉症児の行動に対する反応や態度が、日本人と中国人との間に差異があることを示すことによって、自閉症が文化的・社会的概念であることを明らかにする。ただし、今回のポスター発表では、日・中の文化差を実証するための方法論を中心に検討する。

インタビュー調査

 半構造化インタビューを行った。日・中・韓の自閉症についてのDVDを研究協力者が見てもらい、個人インタビューを行った。神戸大学に在籍する大学院生7名を対象とした。研究協力者は、日本人と中国人の在校生に絞った。また、韓国人1名(院生1年生の男性留学生)、参照群としてインタビューを行った。7名の研究協力者は、性別、学年、障害者と関わる経験有無、異文化経験有無といった属性の多様性を確保するために、指導先生の授業やゼミや知り合いに依頼し、それぞれに適切な学生にインタビューへの協力を呼びかけた。この時点で、全員はインタビューの説明書および同意書を読んでもらってサインをしてくれた。研究協力者は個々人の都合によって、神戸大学の構内において、それぞれ1時間程度と2時間程度実施した。7名のインタビュイーの性別は、女性4人、男性3人であった。学年は、院生1年生1名、院生2年生2名、博士2年生3名、博士3年生1名であり、専攻はグローバル文化専攻、発達支援論、社会環境論、教育科学論であった。また、日本人学生は4人、中国人学生は3人であった。
 インタビューは言語的に分かりやすいやりとりを可能にするために、中国人留学生が中国語で質問を行なった。インタビューは、事前に協力者にインタビューの説明書及び同意書を見てもらい、同意をとった上で実施した。インタビューでは、ICレコードを使用した。終了後、テープ起こしをした。すべての協力者から同意書にサインが得ることができた。ドラムと映画は以下の通りである。

日本のドラマ:光とともに〜自閉症児を抱え〜(2004年)「第2、6、7、11回」
中国の映画:海洋天堂(2010年)
韓国の映画:マラソン(2005年)

インタビューの操作方法について

 三つの映画のDVDを買い、三つのパソコンを用意した。筆者は映画の内容について質問する役と、DVDを操作する役であった。三つの映画を全部上映することは時間的に難しいし、研究協力者にも負担をかけるので、映画ごとを編集せずにセットのままで流し、一部を見てもらうことにした。三ヵ国の映像の内容において、九個のシーンを選んで、「騒音」、「迷惑行為」、「遠慮の気持ち」、「周囲との関係」という四つのカテゴリーを基準にして、四つの場面に分けて見てもらうことにした。場面ごとは、内容によって、一ヵの国のシーンであったり、二ヵ国のシーンであったり、三ヵ国のシーンであったり、した。九個のシーンの時間数は、16分くらいであった。筆者が現場で自閉症児と深く関わりの中で、価値観や文化によって、自閉症児への捉え方、問題行動が起きたあとの対応は、違ってきたことに気づいてきた。その気づきによって、九個のシーンを選択した。場面ごとを見た後に、その場面の内容について、ある程度自由に話してもらった。四つの場面を見た後に、以下のような調査項目で質問をした。

・三か国の映画をみて、自閉症の描き方にどのような差異を感じましたか?
・三カ国の映画の中で、自閉症と他者とやりとりの差異を生じた理由は、何だと思いますか?
・映画を見た後に、自閉症の問題行動に、何か考え方が変わったことがありますか?
・どのような社会が、自閉症にとって生きやすいと思いますか?

インタビューの操作方法の検討について

 現時点では、8名のインタビューが終わったところで、これから、次のような観点で考察する。
・文化差を抽出しようとする際の、知識量や経験に基づく個人差の扱い方。
・実際の文化と、映画によって表象されている文化との差異。
・映画のシーン抽出の妥当性、その効果と課題。
・調査項目の妥当性。

 また、今回は8名のインタビュー結果に基づいて発表を行うが、今後も調査方法の検討を重ね、継続してインタビューを行うつもりである。

倫理審査について

著作権を侵害する可能性がある研究、また、人に直接関する研究という二点で、神戸大学倫理委員会に提出して、調査許可をもらった。



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