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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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朝日 まどか (あさひ まどか) 北海道医療大学

■報告題目

「訪問作業療法」の効果をめぐる言説について──学術誌における批判的言説分析から

■報告キーワード

訪問作業療法 / 権力 / 医療化

■報告要旨

はじめに

 近年、医療に関する議論の中で、「患者中心」という語が出てこないことの方が稀であるほど、患者本人の意思・価値基準を重視すべきとの認識が広がっている(松繁2010:1)。作業療法においてもクライアントと協業することの重要性が謳われ、「クライアント中心の作業療法」が実施されている(Law 2000:3)。松繁は「患者中心の医療」について、概念の曖昧さや高度な医学の「専門知識」と「患者中心」というコンセプトがどのように折り合いがつけられるのかという点に疑問をなげかける(松繁2010:1-2)。
 作業療法はリハビリテーションのなかでも、より「生活」に着目した支援をするが、「生活」は個人的で恣意性が高いものであり、そのようなものに作業療法の言説をもちつつ、患者中心のコンセプトを掲げどのように支援をしているかは疑問である。また、作業療法における言説やそこに秘められる権力性など、作業療法の言説を批判的に分析した研究はこれまであまりされていない。
 そこで本研究では、作業療法のなかでもより対象者の恣意的な生活を支援する訪問作業療法に着目し、訪問作業療法が求める効果にまつわる言説やそこに秘められる権力を明らかにすること、また言説の対象者への適用や権力が強化される背景として、作業療法と社会構造との関係性を批判的に分析、考察することを目的とする。

対象と方法

 訪問作業療法の言説が反映されていると思われる学術誌「作業療法ジャーナル」「作業療法」「訪問リハビリテーション」「地域リハビリテーション」「臨床作業療法」を資料とし、この中から「訪問作業療法」のワードで検索し、訪問作業療法が対象者に求める効果について触れているものを対象とした。資料は、2011~2015年現在(2015年7月14日)とし20本が対象となった。対象とする学術誌は公開されており倫理的問題はないと考える。
 本研究では批判的言説分析(以下、CDA:critical discourse analysis)を用い分析する。CDAは、談話を構成する多元的なコンテクストに意識を向け、そこに含まれる潜在的な意味を読み取ろうとする批判的態度や、表面上は見えない形で談話に埋め込まれた権力性を具体的な社会との関連の中で問題視する批判的態度をもつ(野呂2009:17-18)。本研究においても、訪問作業療法の言説やその言説が生まれる社会との関連を多角的に、批判的態度で分析する必要性があると考えた。

結果と考察

1. 秩序ある多様性
 訪問作業療法は、その人らしい「意味のある作業」の実現という個別性を尊重した関わりをもつ。しかし、そのような多様性を尊重しつつも、不活発な姿勢から意欲的で活動的な「静から動へ変化する姿勢」や、障害をもっても諦めず、新たなことに挑戦する「戦う障害者像」を期待する。そのような姿勢は「活動的で社会参加に富んだ生活」「できなかったことができる生活」といった「過去への回帰」という一定の秩序を作業療法の効果として求め、生活そのものを医療化する。さらにそのような生活が、作業療法士が不在の際も自動化されるよう「規律の内面化」を求める。このように、訪問作業療法は対象者の多様性を尊重しつつも、ある一定の秩序を求め「秩序ある多様性」(田中2014:144)を期待する。

2. 意味のある作業の手段化
 作業療法士にとって「意味のある作業」は、対象者が主体的となりその方らしさを獲得する作業と捉えられ、作業療法の目標として互いに共有される。作業療法士は対象者に興味がある作業や生活課題を尋ね、その作業を「意味のある作業」とする。表出されない場合、作業療法士から何らかの提案がされる。また「意味のある作業」は、機能や閉じこもり等の予防の手段として利用され、さらに作業の継続性や広がりを対象者に期待する。

3. 生活を管理する権力
 「秩序ある多様性」の実現は、高齢化の問題や医療費の赤字を抱え、健康寿命を唱える国の政策と共鳴しやすい問題であり、社会的承認を希求する作業療法にとって動機づけとなりやすい。さらに、これは介護者家族や多職種の期待とも共鳴しやすく、リハ的な視点での生活を対象者に求める。そのため、訪問作業療法は家族や多職種と容易に連携がとれ、その連携は作業療法士が不在の際も管理機能を果たし、さらなる対象者の「生活の管理」という権力を発揮し、訪問作業療法としての効果を得ることに繋がる。

文献

ロウ『クライアント中心の作業療法 カナダ作業療法の展開』(=2000,宮前珠子、長谷龍太郎監訳 協同医書出版社.)
松繁卓哉(2010)『「患者中心の医療」という言説-患者の「知」の社会学』立教大学出版会.
野呂香代子(2009)「クリティカル・ディスコ―ス・アナリシス」野呂香代子、山下仁編著 『新装版「正しさ」への問い‐批判的社会言語学の試み‐』三元社.
田中耕一(2014)『<社会的なもの>の運命』関西学院大学出版会.



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