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障害学会第12回大会(2015年度)報告要旨


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北村 弥生 (きたむら やよい) 国立障害者リハビリテーションセンター研究所
江藤 文夫 (えとう ふみお) 国立障害者リハビリテーションセンター
石川 浩太郎 (いしかわ こうたろう) 国立障害者リハビリテーションセンター病院

■報告題目

身体障害者福祉法第15条指定医の認定基準に関するインターネットでの情報整理

■報告キーワード

聴覚障害 / 専門医

■報告要旨

A. 目的

 本研究では、身体障害者福祉法第15条指定医(以下、指定医)の指定基準と講習に関する地方公共団体の現状を調査した。なぜならば、平成26年2月に聴覚障害の認定基準に対する疑義が国会質問され、厚生労働省からの通知「聴覚障害に係る指定医の専門性の向上について」に「聴覚障害に係る法第15条に規定する医師については、原則として、耳鼻咽喉科学会認定の耳鼻咽喉科専門医(以下「専門医」という)を指定すること」「地域の実情等により専門医ではない耳鼻咽喉科の医師又は耳鼻咽喉科以外の医師を指定する場合は、聴力測定技術等に関する講習会の受講を推奨するなど専門性の向上に努めること」が記載されたのに対し、地方公共団体による指定医の基準および指定医に対する講習に関する情報は集約されていなかったからであった。
 また、平成26年の聴覚障害に関する突発的な疑義だけでなく、経験年数の長い指定医でも「どのように判断してよいか分からないことがある」といった意見があることは、すでに紹介され、判定のための研修を繰り返し実施する必要性は指摘されている。

B. 方法

 インターネットで、「47都道府県名」「指定医」「障害」をキーワードとして検索し、都道府県のホームページに指定医の基準に関わる項目(診療年数、経歴書に求められる要件の掲載があるか否か、および指定医名簿の公開状況を調査した。
また、指定医名簿がインターネットで公開されていた地方公共団体のうち4県市について、指定医のうち聴覚障害を障害種別とする者の氏名を、インターネットで公開されている日本耳鼻咽喉科学会の専門医名簿の氏名と照合し、指定医中の専門医の数を計数した。あわせて、人口密度と聴覚障害者の対人口比率を調査した。本研究は、インターネットで公開されているデータを使用したため、研究倫理審査の対象外であった。

C. 結果

 指定医申請書様式は全47都道府県のホームページで掲載されていたが、指定医の基準に関わる情報がホームページから確認されたのは29都道府県に留まった。
 指定医の申請に際して最も多く求められたのは経験年数(医師資格所得後の年数あるいは当該診療科での診療年数)で、30都道府県の平均4.33年(幅2~7年)であった。
 また、指定医の申請手続きの際に提出する経歴書(履歴書)では、専門性を示す情報として、認定医・専門医資格(27都道府県)、加入学会名(23都道府県)、論文・学会発表等の研究業績(22都道府県)、学位(16都道府県)の記入欄があり、この4項目の記載が公開されていない都道府県は13(27.7%)であった。さらに、一部の障害種別では専門医の資格を求める地方公共団体も少数ながらあった。
 指定医に講習を義務づける記載は3県にあった。東京都は、講習会資料(肢体不自由1~4、視覚障害)をホームページに掲載していた。埼玉県は申請年度及び5年に1回、県が主催する診断書の作成のための講習を受けることを求めていた。岡山県では、指定医の申請時に岡山県監視官診療連携拠点病院等連絡協議会または岡山県医師会が認定した講習会への参加状況の記載を求めていた。
 地方公共団体における人口密度、聴覚障害者の対人口比率、指定医中の専門医の比率を示した。聴覚障害者の人口比率には地方公共団体間に大きな差なかったが(0.34~0.51%)、指定医中の専門医の比率は人口密度が高いほど大きい傾向があった(56.1~86.2%)。

D.考察

 本研究では、指定医の基準と聴覚障害指定医中の日本耳鼻咽喉科学会専門医の比率は地方公共団体により異なり、人口密度が高い地域ほど基準が厳しく専門医の比率が高い傾向があることが示された。また、地方公共団体が指定医のために講習を実施する例は少なかった。従って、通知に対して、人口密度が低い地域では講習会のニーズが高まる可能性が示唆される。すでに、講習会資料をインターネットで公開している東京都および講習を実施している埼玉県等の地方公共団体の資料を活用すること等が期待される。
 指定医の専門性については多様な見解がある。例えば、「(専門医が少ない)地域の実情の重要性に十二分に配慮すること」も指摘されている。すでに、障害者自立支援法以来、手帳の等級でなく障害程度区分(障害総合支援法では障害支援区分)によりサービスを受けることから、指定医は医学的な診断の専門性よりも「障害」を判別できることが重要であるという見解もある。また、身体障害の判定に、従来の機能・形態障害による診断だけでなく、生活機能制限を示す評価項目を積極的に取り入れる方法の検討の必要性も指摘されている。
 本研究では、インターネットによる公開情報を分析したために完全な現状把握とは言えない。次年度には、指定医の基準・講習・平成27年の通知の実効性を明らかにするために、都道府県・政令都市・中核都市を対象とした質問紙法による調査と一部の地方公共団体に対する面接法による調査を行う予定である。



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