障害学会第11回大会(2014年度)

障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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山田 裕一(やまだ ゆういち) 障害学生パートナーシップネットワーク
石橋 尋志(いしばし ひろし) さかいハッタツ友の会
相真 良央(さがら まお) 熊本県発達障害当事者会Little bit/宮崎青年・成人発達障害当事者会ShiKiBu

■報告題目

研修・交流イベント「発達障害当事者会のリアル―闇がなければ光は見えない―」の実践

■報告キーワード

■報告原稿および資料
yamada.doc(MS Word 97-2003ファイル) yamada_ref01.doc(MS Word 97-2003ファイル) yamada_ref02.doc(MS Word 97-2003ファイル)

発達障害 当事者会 当事者主体

■報告要旨

 本報告の目的は「社会適応」をさせることに偏りがちな発達障害支援・啓発に「別様の可能性」があることを実感する中から、支援者や家族には既存の支援の方向性、当事者には今後のライフコースの目標設定の再検討を促すことである。更にそれらの重要性と難しさを提起しつつも、再考の具体的な可能性を探るきっかけにしたいと考えている。

 発達障害にスポットを当てたセミナーや講演会は数多く開催されていている。しかし、その大半が行政・支援・教育機関、親の会等によって主催され、知識の普及・啓発に大きな役割を担っている一方、「発達障害者をいかにして社会適応させるか」つまり、「定型発達者中心主義社会」の構成員として組み込むことを自覚的/無自覚的に示唆するような内容である場合が多い。「当事者はこういうことで困っています(社会にとって困る存在となっています)」「このような支援を受ければうまく就労できます(社会の成員として役立つ存在になり得ます)」というサクセスストーリーの「語り」によって、発達障害の実情と支援のあるべき方向性について理解した「つもり」という感覚を広げることにつながる。

 つまり、発達障害当事者の「困った/支援が必要な存在」としての側面が強調され、一定のパターンの支援の枠組みに組み入れることこそが、当事者の幸せな人生につながるという側面のみが強化されることにつながり、発達障害者は定型発達者より「劣った者」という無自覚なヒエラルヒーを固定化する副作用を伴っている。

 更にこのようなイベントは広く市民のために発達障害の理解を求める目的の企画であることと裏腹に、参加者の顔触れに変化が乏しく、新しい知見が生まれたというよりも「やはり自分の考えていた方向性は間違っていなかった」という共感型の満足を与えるにとどまり、主催者が真に届けたい「発達障害に関心が薄い層」の参加が極めて少ない現状が生まれがちである。

 そこで報告者は従来型の講演会・研修会が持つ課題を整理し、今回のイベントに際し以下のような目的を定めた。

1.サクセスストーリーに限らない事例を提示すること

 「支援によってこんな風にうまくいった」というような、一部の成功事例ではなく、既存の支援ではうまくマッチしない、もしくは社会適応しているかのように見えて実はとても苦悩していることがある等、当事者のどうにもならない現実と向き合わせる。

2.特定の発達障害当事者のイメージが固定化されないようにすること

 最近では専門家の講演だけでなく、当事者が講演をする場合が増えている。しかし、そのほとんどが一人の当事者が一方的に思いを語るスタイルであることが多く、目の前の語り手のイメージイコール発達障害者という固定観念が無自覚に生まれてしまう問題があるので、複数の当事者の実態を同時に伝える等の工夫を行う。

3.情報を一方通行で伝えるのではなく、参加者同士の知恵の分かち合いを目指すこと

 講演会のように話を一方通行で伝えるのではなく、グループワークの手法等を駆使して、参加者同士がそれぞれの想いを伝え合える機会を作ること。

4.発達障害当事者の可能性や魅力についても伝えること

 「困っている人」という文脈のみで語られがちな発達障害当事者の別の側面、持っている強み、豊かな感受性を多様な方法で伝えること。

 報告者は以上のような視点を前提に、企画書を作成し、支援者や家族が集う複数の場において、イベント企画の提案を行った。ところが、いくつかの観点から企画が却下されてしまった。中でも支援者や家族の口から共通して出てきた意見に報告者は注目した。

「成功例を提示しないと、モチベーションを下げ、いい研修会にはならない。支援者や家族が前向きになれるようなイベントにすることが重要だ」

 確かに、支援者や家族の立場からすれば同じ立場の人々に暗い気持ちを持ち帰ってほしくないという気持ちは理解できる。ただ、その事実を知ったある当事者は当事者会において以下のようなことを述べている。

「支援者や家族のモチベーションを重視するがあまり、当事者のリアルな現実から乖離した情報が蔓延することは本末転倒ではないか。本気で当事者と向き合うつもりなら、今までスポットが当てられてこなかった暗部にこそ着目すべきではないか」

 以上のような状況を踏まえ、報告者が顧問を務める「熊本県発達障害当事者会 Little bit」では、支援機関等に頼らず、当事者会自らが研修・交流イベントを企画実施するという、前例にないプロジェクトが開始された。補助金にも頼らず、支援機関の直接のバックアップを得ずに、大阪・福岡・宮崎の当事者会関係者の助力を得て、しがらみのない中で、「発達障害当事者会のリアル―闇がなければ光が見えない―」は誕生したのである。発表当日はイベントの概要と、実際について報告すると共に、発達障害者支援・啓発の今後の在り方について考察したいと考える。



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