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障害学会第11回大会(2014年度)発表要旨


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小川 喜道 (おがわ よしみち) 神奈川工科大学

■報告題目

イギリスにおける福祉サービスの合理化をめぐる施策動向

■報告キーワード

ユニバーサル・クレジット / 自立 / 就労

■報告要旨

1.我が国における福祉予算の制約と制度理念の表現

 あらたな福祉関連制度が作られる際に、しばしば“聞き心地のよい言葉”が綴られる。削減・制約する経費と共に、さまざまな言葉が用意される。例えば、介護保険制度をみると、2000年施行時には「介護を社会的に支援するシステムの創出」とうたわれていた。実際には、原資の半分を、40歳以上から徴収する保険料でまかなうことである。また、“社会的入院”と言われる隔離・拘束・薬漬けされている事例も多く見られた病院収容を、一部は介護療養型医療施設(2012年10月現在、1,681件75,200人)として継続している。これは、今日の精神科病棟転換型居住系施設に関する問題と重なり合う事柄である。また、2006年の介護保険法改正においては、要介護者数を抑える目的で要支援、“特定高齢者”(“二次予防事業対象者”)支援を介護保険制度でまかなうこととし、次のように表現している。「介護保険の基本理念である『自立支援』をより徹底する観点から(中略)新たな予防給付へと再編する」と。そして、2015年には予防給付の自然増、約5~6%/年の分を削減していく施策を実施し、それを「総合事業への移行により住民主体の地域づくりを推進」とうたっている。
 障害者福祉の分野でも、まったく同様のことが起きている。2006年障害者自立支援法は、それに先立つ支援費制度で介護給付関連予算の不足が明らかとなり、訪問介護の時間制限を公表したところから障害者運動も激しさを増すことになった。それに対して、「改革のグランドデザイン」を示し、「効果的・効率的」という言葉の下の障害区分、「公平」という言葉を用いての応益負担が示され、障害者自立支援法を成立させることになる。そして、「自立支援型システム」「自己実現・社会貢献」という表現は、就労重視施策を示している。
 本報告では、イギリスの福祉サービスの施策も我が国と底流で共通するところがあるので、その動向をみることとする。

2.イギリスの福祉サービスに関する近年の動向

 Disability Rights UK(前Disability Alliance)が毎年発行している『障害者の権利ハンドブック(Disability Rights Handbook)』の35th~39th Edition (2001~2014)について、主として「雇用と訓練」の項目と「在宅支援」(最新版では「自立生活」)の項目を取り上げ、イギリスの福祉施策動向の一端を明らかにする。なお、Disability Rights UKは、障害者団体としては最も大きなものであり、障害者の権利を主張し、諸手当削減に反対し、社会的変革を推進してきている。そして、このハンドブックは障害者側に立った制度の活用について紹介しているものである。
 ハンドブック2011年版に福祉改革法案(Welfare Reform Bill)の説明の中でユニバーサル・クレジット(Universal credit)が紹介され、2012年版では福祉改革法(Welfare Reform Act)の解説がされている。2013年には、法施行に伴いユニバーサル・クレジットが、ハンドブックの14項目のところで別々に解説、2014年版では一つの章立てとなり、58頁にわたって詳しく解説されている。障害者が不利益を被らないためにもさまざまな条件にある人たちがいかに対処すべきかを知ることができる。
 キャメロン連立政権は、2010年より福祉制度の改革を推し進めてきており、雇用年金省は、2010年7月30日に報告書『21世紀の福祉』(21st Century Welfare)を出している。そして、福祉改革法2012により、労働年齢にある人の現存する資産調査付き諸手当や税控除をまとめてユニバーサル・クレジットとして合理化することとした。うたい文句は、”仕事を得るよりも手当を得るほうがよい”と思われている現状の問題を捉え、雇用年金省として、仕事を求める人を手助けし、働くことの有益性を確かなものにする、としている。このことは、障害者も影響を受けることになる。障害や疾病によりフルタイムでの就労が困難な場合、我が国の障害支援(程度)区分認定のような、「労働能力アセスメント」(労働に関連する身体活動、精神・認知・知的機能のそれぞれについて細かく分類した諸行為を、0~15点で評定)が行われ、そのうち医療的アセスメントは、雇用保健省によって認定されたヘルスケア専門職によって行われる。それにより、全国共通で標準化されたものとなると判断されている。そして、一定の評点以上の場合は、就労に向けた諸活動をしなければならず、それを怠ると手当が削減される仕組みである。
 このユニバーサル・クレジットを含む福祉改革について、政府は「公平性を産み出し、より利用しやすく、そして貧困や福祉依存に挑む」ものと“展望”を示している。現実には、障害者の諸手当は微増しかしておらず、さらに就労支援のシステムも、就労準備、ワークステップ(テーラーメイドの就労支援)、職業紹介制度を「ワークチョイス」と称する一体型システムに置き換え、合理化されている。障害者にもワークインセンティブ(就労への努力)が求められている。この一事例をみても、イギリスにおける経済的締め付けと制度の“理念としての表現”が表裏として存在していると言えよう。発表時に、詳細を報告する。

参考文献
Department for Work and Pensions: Universal Credit: welfare that works, 2010
Disability Rights UK: Disability Rights Handbook, 1999~2014年版



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